高嶺の花の裏表

夜桜酒

1. 高嶺の花とはじまり

第1話 

高嶺の花。

遠くから見るだけで、手に入れることのできないもの、あこがれるだけで、自分にはほど遠いもののたとえ。

色々な言い方や使い方があるけども、要するに集団の中でもそういった子は存在する。

まぁその場合は、手に入らないからこそ近付こうとする輩がセットになりやすかったり。

当然、私の通う晴嵐高校にも存在するわけで。



「黒崎雪那さん、ずっと好きでした!僕と…付き合って下さい!!」



ちょうど放課後、雑用を済ませている最中にその場面に遭遇してしまった。早く帰りたくて近道だった校舎裏を通ったのが間違いだった。


さてどうしよう。早く帰りたい。

しかし、さすがに告白中のところを横切るほど私の神経は図太いわけでもなく。

戻って遠回りするほど親切な性格でもない。



「……私のどこに魅力を感じたのでしょう?」


「それは勿論可愛いし。それに黒崎さん、みんなに分け隔てることなく接するところとか優しいところとか…。見てて、いいなって…。」


「そう…。」



黒崎?

チラッと告白を受けてる方を見れば、学校の有名人がそこにいる。


黒崎雪那。

面識はほとんどないけれども、噂が絶えない我が校の高嶺の花らしい。

入学してからそんなに経ってないはずなのに、すでに時の人というか。


目鼻立ちのはっきりした綺麗な顔に艶のある黒髪。なるほど、あれは噂になるわけだ。


「ごめんなさい。よく知らない方とはお付き合いできません。」


「えっと、友達からとかどうかな?少しずつ知ってほしい。返事はそれからでも…。」


よほど付き合いたいのか、食い下がるのはいいけど…早く帰りたい。



「ごめんなさい。それもできません。」


「理由を聞いてもいいかな?」


「私にはもうお付き合いしている人がいます。」


え。

今、なんて……?

あの有名な黒崎雪那に恋人?

そんなニュースはもちろん、噂一つ聞かなかったのに。


あまりに動揺してしまったのか私は…。

ジャリッ。

つい大きく動いてしまった。

その音は近くの二人にも聞こえたはずで。



「あ。」


「「………。」」


覗いていたことがバレた。


「あー、ごめん。通りかかっただけで…。」


「先輩ってば、心配性なんですね。」


え?


「心配で見に来なくても私は先輩一筋ですよ。」


いや。

この子は、何を言っているの?

これだと目の前の男子生徒に誤解を招く言い方だ。


「そういうことだから、私は相馬先輩以外とお付き合いするつもりはありませんので。」





思えばこれが私、相馬伊月と黒崎雪那の始まりだったかもしれない。

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