冬の海を燃やしたら

夢摘

プロローグ

 冬の海が好きだった。夏よりも冬の海のほうが綺麗に見えるのは、気持ちの問題ではなくプランクトンが少なくなるから透き通って見えるらしい。

 夜も凍ってしまいそうなくらいにさびしいこの場所で、恋人だった人がそう教えてくれた。

 

 あぁ、死に損ねてしまったな。もっともっと、本当の意味で強くて美しい人間になりたかった。誰の目も気にすることなく、自分の思うままに生きていきたかった。この世界は美しいと信じて疑いたくなかった。そして何もかも燃やしてしまいたかった。


 炎が青かったらよかったのに。海の水は掬っても青いままならよかったのに。どうしてこんなに透き通っているのだろう。


 私は自分の両親を知らない。物心ついた時からひとりぼっちだった。それでも私の手を引いてくれた人がいた。

 狭い世界の中で、彼だけが私の全てで、彼さえいればよかった。私の心は全て彼にあげてしまったから、もう何も残っていないの。


 私の人生は決して誇れたものではないけれど、今までに後悔はしていない。もしあの時に戻ったとしても、あの時の自分の精一杯の答えはきっと正しいものだったと思う。

 どんなに辛くても泣いても叫んでも、それでも、積み上げてきたものは間違っていなかったと願うばかりだ。


 でも人間は後悔を重ねて生きていくものだから。


「あの時に戻れたら」もし本当に戻れたとして、それは幸せをもたらしてくれるの?全ては自分の選択次第なのに。


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