第7話 嫉妬

「クソッ。なんなんだ!」

 高塚さんは何であんな話を俺にしたんだろう……。

 あの日以来、夜布団に入ると高塚さんの話したことで頭の中が荒らされて眠れない。いや、夜だけじゃない通勤電車の中でも、仕事中でも頭の中を占領されている。

 悩んでいるわけじゃない。何故か怒りに似た感情に近い。この感情を収めようと、高塚さんが受けた心の傷を理解するように理論的に自分に言い聞かせても、気付くと怒りのような感情にむしばまれている。

 どうして簡単にその男たちを受け入れたんだ。どうして最初から信じ込んでしまったんだ。俺はまだ高塚さんとパスタを食べて、カフェでコーヒーを飲んだだけなのに、その男たちは高塚さんの身体からだを知っている。高塚さんは、高塚さんは、男と寝ることに抵抗が無いのか……。

 俺にはあんな話をして、慎重なくせに……。俺はその男たちより劣っているのか……。

 そうじゃない、そうじゃない事はわかっている。高塚さんはいままで心の奥にしまっておいた辛い出来事を俺に聞いて欲しかっただけだ。俺を頼ってくれたんだ。そんな事は分かっている。分かっているけど……。


「今夜も眠れない。もう忘れたい!」

 何で俺は高塚さんに怒っているんだ? 嫉妬しっとなのか?

 いっそのこと、俺も他の女と一晩を過ごせば、気がまぎれるのか?

 みにくいな……俺は。こんなみにくい自分になってしまったのは、高塚さんがあんな話をしたから。だから俺は怒っているのか?

 違う……。やっぱり嫉妬しっとだ! 高塚さんが他の男に身体からだを許してしまっていたことが許せないだけだ。

 俺と出会う前のことだから、俺が嫉妬しっとするような事じゃない。でも、なんだか許せない……。


 高塚さん、君は何かがきんでているわけでは無い。毎日同じ時間に出社して、朝給湯室でマグカップにコーヒーを入れて席に戻って行く。そんないつも繰り返される日々を過ごしている、素朴な君にかれた。受話器を耳に当てながら、パソコンで営業データを調べ、笑顔で話している君。会議の時に几帳面に資料をホチキスで束ねて、配っている君。そんなごく普通で素朴な日々を過ごしている君にかれた。

 だから、男たちとそんな経験をしていたなんて、ショックだった。勝手に俺が都合の良いイメージを持っていただけなんだけど……。どうしてか、許せない。


 本当に俺はみにくいな。こんな感情で苦しむなんて、もう嫌だ。めてしまいたい……。


 明日、高塚さんに話をしよう。こんな状態で、まともに話をすることが出来るか分からないが、正直な気持ちを話そう。


つづく……

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