第20話 配信世界で現実に酔う3


 ぐるぐる回る視界にわたしの身体が限界に達した。

 口元を押さえた甲斐かいなく、不快な音と共に、わたしの口から何か虹色のポリゴンが流れ出ていた。


 拾われたい落穂「嘘でしょ!?救急車呼ばなきゃ!!」

 撒かれたい種「いやホンマに大丈夫なん?!」

 響き渡る鐘「かわいいままではいられなかった!でも大丈夫かわいいよ!!」

 混沌極める街「あー!そういう!」

 干された時計「そういう方向の子なんね」

 少女が巻いた青ターバン「まじでこれ何ゲーやった?」


 っていうか、データ体のわたしの中に消化物とかないでしょ!? なんでこんな表現あるの!!

 そういえば、スマホでも通話アプリのチャット機能でも、そういう顔文字あるよね!? これも標準実装のエモートとかいったりする??

 いつも見てくれてる人達からは心配の声、初見さんからは勘違いの声が聞こえてくるけど……そういう方向ってどういう方向よ?! わざとでもないし、したくてやった訳じゃないんだからね! 有名な配信者さんにもそういう方々がいらっしゃいますけど、パフォーマンスじゃないと思うんよ! ホントに無理な状態だったと思うんよね……わたしも無理だった……


「はあ…………はぁ…………」


 ひとしきり混乱した頭で余計なこと考えたけど、倒れてたらとりあえず落ち着いてきた。

 多分視覚情報によるものだから、目を閉じてたら悪化はしないんじゃないかな……


「だ、大丈夫、寝てれば何とかなるから……心配掛けてごめんね! と、とりあえず、配信終わるね……おつハイルぅ〜……」


 目を閉じたまま終わりのあいさつをして、配信終了を告げる。


 拾われたい落穂「心配過ぎる!!おつハイル」

 撒かれたい種「お大事に。おつハイル」

 響き渡る鐘「弱りハイルかわいい。おつハイル」

 混沌極める街「チュートリアル終わらなくて草」

 干された時計「辛いモノと咳には気を付けてw」

 少女が巻いた青ターバン「最後まで困惑なんやけど?」


 緞帳どんちょうが降りて客席が切り離され、周りが静かになる。

 まだ客席は騒がしい感じはするけど、ちょっと気にしてる余裕はないかな。


 ゲームを落とすと、元の配信部屋がわたしの視界に広がった。歪みのない世界に戻ってきて少しは落ち着いた。

 気持ち悪さと目眩はまだ少し残ってて、フラフラしてるけど、お風呂入って気分を変えたい。

 謎の虹色のポリゴンはゲームを消した時点で消えていた。だから、たぶん必要ないんだけど、気持ちの上では着替えたいし洗濯もしておきたい……

 まだまだこの世界のことは分からないことばかりみたい。色んなところを巡って、詳しく知る必要がありそうだね。

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