第9話

静かにごくり、と喉が鳴る。

彼女の黒目が少し揺れた気がした。

僅かな沈黙のあと、


「…ううん、大丈夫。行こうか。」


掠れたハスキーボイスが耳に響いた。

彼女はわたしの右側に移動して肩を抱いて歩き出す。

呆然としてるセミロングの女の子に一目もくれず逃げ出すように早足で。

心臓が胸を激しく蹴る。触れられてる肩が熱い。

300メートルくらい歩いたところで、


「ここに入りましょうか。」


彼女の優しい眼差しが眼鏡の奥からわたしを見つめてくれていた。

わたしは無言で肩を抱かれたまま頷くことしか出来なかった。

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