7. スライム狩り

「お姉さん、そこのお姉さん」

「私たちですか?」

「そうそう、昨日の」

「あぁ、干物屋さん」

「そうです。今日の分の干物を干すんだけど、手伝ってくれませんか? 1時間もあれば終わるかと。それで一人5000ルアですけど」


「みんなどうする? 私は手伝おうかと思ってます」

「じゃあ、私も」

「お姉ちゃんを手伝うよ」

「わかった。じゃあ3人、お願いしていいですか?」


「ほいきた。では今日は3人ね。この魚の入った箱を持って、頭と尻尾の向きだけ気を付けて揃えて並べていってください」

「はいっ」

「間隔はなるべく狭く。でも重ならないようにお願いするわ」

「わかりました」

「「はーい」」

「いい返事ね。ではお願いします」


 魚の箱を持って魚を乾燥棚に並べていく。

 難しいということはないだろう。

 いたずらとかしなければ6歳くらいでもできそうだ。


 今日も天気は晴れ。

 干物を干すのにはよさそうな天気だ。


 ワイバーンとか襲ってこないといいんだけど、大丈夫だろうか。

 だ、大丈夫よね?


「あの、これモンスターに襲われたりしないですよね?」

「このくらいの小さい魚を狙ってくるモンスターはいないかなぁ、この辺だと」

「この辺だと?」

「たまにスライムがネコババしようとするくらいかな、まあそんなもんだね」

「へぇ、スライム出てくるんですね」

「まあねえ。でもここは柵もあるし、人里にはあんまりスライムでも顔を出さないから」

「そうなんですね」


 私はちと小さいので干物棚が高くてちょっとやりにくい。

 ウェアラビットのスポさんは手早く次々並べていく。さすがお姉さん。

 妹は私と同じで少しどんくさいタイプなのでマイペースに並べていた。

 怒られるほど遅いわけではないので、大丈夫だ。


 カモメが飛んでいる。


 鳥くらいなら網が張ってあるので、入ってこないと思う。


 なんとか並べ終わって、お金をもらった。

 クエスト完了ログが流れて、経験値が取得されてレベルがあがった。


「やった。バイト代とか助かります。いいぇーいレベル2になった」


 妹がはしゃいでいる。

 私もレベル3になった。


「スポさんは?」

「私は今レベル8ですね」

「はやっ」

「最初に恥ずかしながらスライムを必死に狩りまくったので」

「あぁなるほどね。別に恥ずかしくはないけど」

「そうですかぁ」


 釣りとかと比べると、スライム狩り必死にするスポさんも見てみたい気がする。

 この人、素早いけど本質は妹と同じマイペース派みたいだから。


「私、スライム狩りしてみたいです、お姉ちゃん」

「そうかそうか、我が妹よ」


 私も少し思っていた。スポさんが必死に狩ったというスライムを。

 意見が一致したところで、二人で上目遣いをしてスポさんをじっと見る。


「スライム狩りがしたいです、スポさん」

「わかった、わかったから、上目遣いで迫らないで、かわいすぎる。ごほごほ」


 ツボだったのか、スポさんがむせている。

 今度から困ったらこれでいこう。



 集落から山のほうに進む。

 道らしい道はすぐなくなり、林の間の獣道を進む。


 木は密集して生えているわけではないけれど、低木なんかもあちこちにあり、見通しは比較的悪い。


「迷子にならないように、注意しよう」

「お姉ちゃんこそ」

「分かれてしまったら、集落へ戻ることにしましょう」

「分かりました」

「はーい」


 スポさんの的確な指示で、方針が決まる。

 こうちゃんととりまとめてくれると助かる。


 私たち姉妹はどちらかというと天然ボケ組らしい。遺憾ながら。

 頭はいいはずなのだが、どうしてって感じではある。

 級友たちには可愛がられておもちゃにされるし、なんでだろうか。


「お、このこが」

「ええ、スライムです」

「見たまんまだね」


 スライム君発見。

 水色のお饅頭型をしている。

 目と口がついていて、いかにもスライムですっていう風貌だった。


「こうしてナイフで、えいや」


 スポさんがナイフで切りかかる。

 ダメージ55+50。

 お、これが固定ダメージか。


 もう一度切りかかった。

 ダメージ59+50。


 はじめてのスライム君はそうして霧になって消えていく。

 後には魔石っぽいのが落ちていた。


「これがドロップ。普通に地面に落ちるから回収するの。今回は魔石ね」

「他にスライムゼリーでしたっけ」

「そうだね。確率は半々くらい。両方出ることもあるわ」

「なるほど」


 こうして遭遇するスライム君をやっつけていく。

 たまに人の気配もする。


 そうするとお互い気配を見て、遠ざかるように避けていく。

 私たちはもちろんスポさんのガイドで進行方向を決めている。


「またスライム君」

「ええ、他にはまだ見てないわね」

「ほーん」


 しばらくスライムを狩る。

 釣りをするときもそうだけど、集中してやるにはどうしても少し時間が必要だ。

 バフの15分は切れてしまったので、また食べて時間を延長した。


「お、なんか色が違う」

「レアっぽいですね」


 ▼ブルースライム


 普通のは青じゃなかったんかい。

 確かに普通のスライムはこのこから見たらブルーというより水色だった。

 これはもっと青い。


「やっつけていいんでしょうか?」

「いいんじゃない?」


 妹が質問するけど、スポさんはけっこう楽観的らしい。

 でも私も倒していいと思う。


 三人でナイフで攻撃する。

 別段強い感じもしない。


 普通に倒せて、なんだかよく分からなかった。


 ▼スライムの雫


「おぉ、ドロップはレアっぽいの落としましたね」

「ええ、初めて見るわね」

「拾っていきましょう」

「もちろん」


 そういえばあまり山の頂上のほうには行っていない。


「頂上には行かないんですか?」

「少し登ってみれば分かるけど、上のほうにはスライムがいないみたいで」

「なるほど」

「ほへぇ。でも山頂って何かある気がしません?」


 妹の勘だ。この勘は結構当たる。


「そういえばそうね」

「妹の予感はよく当たるので、行ってみましょ」

「分かったわ」


 三人の同意が得られたので、山を登っていく。

 確かにスライムが減っていきすぐに出てこなくなった。

 スライム狩りをする人なら引き返すだろう。


 坂も急になってくる。


「もうちょっとだね」

「うん」


 一生懸命に登る。

 岩が段みたいになっていた。

 小さいミニエルフにはキツいけれど、登れないほどではない。


「えいしょ、えいしょっおお」


 ぎりぎりだった。セーフ。

 それに対してぴょいっと登ってしまうウェアラビットのスポさんだった。


「なんか不公平な気がする」

「まあ、こういう場合はしょうがないよね」

「そうね。でもほら、被弾面積、被弾面積」

「うっ、そうなんだよね」


 それでミニエルフにしたんだから、文句は言えないのだ。


 ついに山頂に登り切った。

 島の東側に突き出ている山頂は360度ビューイングだった。


「おおぉ、絶景かな絶景かな」

「お姉ちゃん言い方が古い」

「パーフェクト、ビューイング」

「英語で言い直してもダメだからね」

「くそう」


 三文芝居をしつつ周りを見る。


「よく見えるね」

「ええ」


「やっほおー」

「「やっほおー」」


 海の向こうに陸地がずっとつながって見えている。

 ここは一応湾内みたいで、左右のほうにもはるか先に山が見える。

 南側はずっと海だ。


 北側1km先には前出の通り王都エルベスタンの街が広がっている。

 帆船なんかも確認できるから、あれがこっちくればとは思うものの、声は届かない。

 街の煙突から煙が出ているのが、かすかに見えた。

 その後方には平原があり、その先は森林と山脈が見える。


 それから一周したときに見逃したのか、西隣に島がある。

 かなり近い。

 ただ木々に覆われていて、人工物はなく人が住んでいる気配はない。


「よいしょ」


 山頂の段から降りる。

 この山頂は2段になっていて、その段差の脇、分かりにくい凹みに宝箱があった。


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