6. 魚フライサンド
「はろはろ」
「こんばんは」
「スポンジナディア半島……それでスポさん。はじめまして妹です」
「妹ちゃんね。こんばんは」
スポさんが現れた。
「私はこの後も釣りするけど」
「じゃあ、私たちもついていきますね、いいかな?」
「はい。お姉ちゃんにおまかせで」
焚火に近づいて手をかざす。
▽消火
▽収納
メニューが出るので「収納」を選ぶ。
アイテムボックスに「焚火(60/100)」と表示された。
この分だと一晩中使うと100全部消化しそうだ。
妹とスポさんを連れて桟橋に向かう。
桟橋は木製なので、手前の砂浜になっていて波が来ない場所に焚火を再び設置する。
「この焚火、対岸から見えるかな」
スポさんが質問してくる。
「見えるかもしれませんね」
「見えたら、誰か手とかかがり火とかで合図してくれたら面白いんだけど」
「そうですね」
「でも望み薄かしら」
「はい。現実的には、体験版ですから」
「まあ、そうよね」
スポさんと並んで釣り糸を垂らす。
魚は夜寝ているかと思いきや、意外と掛かる。
アジ、サバ、アジ、アジ、クサフグ、イワシ、アジ、イワシ……。
「他の種類は釣れないの?」
妹の質問ももっともだ。
「どうだろう」
「それはね。たぶん釣り熟練度が関係してるわ」
「なるほど」
さすがスポさん。
私たちはまだ釣り熟練度が低いから、いろいろな種類が釣れないのだ。
もっとタイ、ヒラメ、カレイ、キスとか釣れるようになると面白いのだけど、そうか釣り熟練度だったか。
「今熟練度いくつですか? 私は32」
「私は19かな」
「それくらいですよね」
「ええ」
1匹で1というわけではなく、だんだん上がりにくくなってきて今は0.4くらいだろうか。
後ろの焚火に照らされて、釣りを続ける。
「お姉ちゃん、空なんだけど」
「空?」
「うん。北斗七星とかないね」
「あぁ、そうだね」
私とスポさんも空を眺める。
ここは北半球だ。太陽が左から右へ移動していたから。
今は夜空が広がっているが、中央に赤や青が混ざった帯がある。
「ミルキーウェイではなく、カラフルウェイになってるね」
「そうだね」
「そっか、地球じゃないんだ。夜空も違うんだね、お姉ちゃん」
「そういうことだね」
こうしてゲーム内の夜も更けていく。
釣りを続ける。
疑似餌なので餌がなくなったりしない。
サバ、アジ、アジ、アジ、サバ、クサフグ、イワシ、アジ……。
釣れることは釣れる。
そして朝になった。
観察してみると現実時間の5時間ぐらいで昼夜が切り替わる。
昨日の昼過ぎ1時にチュートリ島を始めて、夕方6時ごろに陽が沈んだ。
夜の11時ごろに朝になったので、5時間ということになる。
地球時間は24時間なので、固定の時間で遊んでも日によって朝だったり夜だったりするということだろう。
とにかく朝になった。
また島の人のお店が再開する。
「はーい。おはようございます。雑貨屋、開店でーす」
私たちはさっき釣りを終えていったんログアウトして広場で休憩をしていた。
ジャストタイミングだった。
「すみません。えっと初心者携帯料理コンロと油ください。あとパン」
「あいよ」
何に加工するのか知らないけど、クサフグ含めて魚を少し売却する。
アジは取っておく。
「では、パン粉はないけどアジフライにします!」
「わーい、ぱちぱちぱち」
「いいねぇ、ミスティちゃん」
そうそう、私はミスティちゃんだった。
コンロには鍋が付属しているので、それに油を入れて捌いたアジを素揚げにしていく。
じゅぅじゅぅ。
いい音と匂いがしてくる。
朝になって一度戻ってきた来訪者つまりプレイヤーも何人かいて、固唾を呑んで見守っている。
一応ひっくり返して逆側も揚げる。
そして取り出す。
お皿として何枚か貰ってあった木の板にアジフライを広げておく。
「塩を振ります」
パラパラッと塩を振ると、キツネ色に白い点々でとても美味しそうだ。
「これをパンにはさみます」
「おぉおおおお」
「うまそうだ」
「これは、売ってくれる、んだよ、な」
ごくりと喉を鳴らす音がする。
夜の間に釣ったアジの数はかなりある。
それを順番に揚げて冷まして流れ作業で塩を振りパンにはさむ。
▼魚フライサンド
魚で一緒くたになってるけど、使ったのはアジだ。
生はちょっとダメって人でも、これはいける。
「いただきます」
まずは自分で試食してみないわけにはいかない。責任があるので。
▶魚フライサンド
15分 ダメージ+50
おぉバフがついた。
あんまり強くないっぽいけど、ダメージって書いてあるから「固定ダメージ」だと思う。
殴ってるような手のマークに上矢印がついているアイコンが視界の隅に表示されている。
視界には他にも通常のレベル、HPバー、MPバーなどが表示されていた。
「どうやら、料理の一部にはバフが付くみたいですね」
「ほう?」
きゃっきゃしていたプレイヤーの男性陣が急に顔色を変えて真剣な表情をする。
なにそれちょっと怖いからやめて。
「お嬢さん、2つください」
「あねさん、俺には3つ」
「じゃあおれも3つ」
「がっつくなよ、順番だ順番」
歳が上っぽい人が仕切ってくれて列を作った。
「それでいくらにするんだい?」
「えっとじゃあ300ルアで?」
「わかった、さ、並んだ並んだぁ、ひとり3つまでな」
私とトレードウィンドウというやつで交換していく。
みんなスライムゼリーとかを雑貨屋さんですでに交換してあるのでルアで済んだ。
物々交換だとレートとかを算出しないといけないので面倒なのだ。
魚サンドイッチの配布はすぐに終わった。
でも昨日かなり釣ったのでまだ残っている。
「んぐんぐ、うまいなコレ」
「……ありがとうございます」
私の目の前で、つぎつぎ口に入れていくプレイヤーたち。
評判は悪くない。
アジフライだもんな、悪いわけないよな。
タルタルとかお醤油とかあるとバリエーションになるけれど、高望みはすまい。
「よしバフ時間がもったいないので、俺はこれで」
さっそく一部のプレイヤーは山に入っていった。
あっちにはスライムがいるらしい。
「おぉ2つ食べてみたら、時間が28分、つまり延長されるんだな」
「あっ、そりゃあ面白いな。バフって重複するかしないかくらいだから、延長は珍しいタイプだな」
そして検証を始める人たちがいる。
ほーん。詳しい仕様はよく分からない。
「3つ食っても時間は30分だな。つまり食いだめは2つまでだ」
「違う種類は食いだめできないらしい。15分で上書きだな。ダメだった」
他の料理を持っている人もいたみたいで、その人も検証してくれた。
何食べたかは知らないけど。
「それで何食べたんですか?」
「レタスジュースだな、うん」
「「レタスジュース」」
「いや、時間がなかったんで水とレタス刻んだだけのやつ」
「なんだそれw」
「ちなみに効果は15分HP+5で、10秒にHPが5回復する」
「へぇ」
「「へぇ」」
みんな本当は感心があるんだかないんだか、あきれている。
レタスジュースはひどい。
「レタスジュースの味は?」
「それは聞いちゃダメなやつだから」
「そうっすか、検証、お疲れ様です」
「あはははは」
10人くらいしかいないが笑いが起きる。
レタスジュースはちょっと私もいらないかもしれない。
実は青汁とかより美味しいかもしれないけど。
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