仮面夫婦

たたらば

偽りの愛

 僕はため息をついた。

 またあの家に帰らなければならない。

 いや、他に帰るところがあるから行かなければならないの方が正しいだろうか。


 憂鬱な気持ちのままガチャっとドアを開ける。

 玄関で靴を脱いでふかふかの廊下を歩いてリビングへと入った。


 奥ではトントンと包丁の音が鳴っている。妻が夕飯を作っているようだった。


 目線を下へと向けると大きな犬が寝転がっている。うちの飼い犬のポチだ。

 今までに何度か犬を飼ったことがあるが、妻が名付けるのはいつも決まってポチという名前だった。

 たまには違う名前にしようと提案をしてみたこともあるが、犬は絶対ポチと頑として譲らなかった。


 僕がリビングでくつろいでいると妻が料理を完成させて持ってきた。


 今日はシチューよといつも通りの言葉を並べながら置かれたのは茶色いシチュー。


 妻の料理はとても不味くて味わうなんてことはできない。最近はもっぱら余所で腹を膨らまして帰っては、妻に見つからないように捨てる。


 今日もまた茶色いシチューを捨てた。



 食事を終えて妻と今日あった出来事を話すのがなにより辛かった。嘘で塗り固められた僕の話を妻は笑顔で相槌を打ちながら聞く。


 妻は僕の嘘に確実に気づいていた。



 そうやって過ごしていると家の外から大きな声が聞こえた。




「みんな~!そろそろお部屋戻るよ~~!!」



 ポチは真っ先に立ち上がり駆けていく。


 僕と妻も立ち上がって砂を払う。



 友達になった妻が今日は良かったよと笑う。


 でしょ?って得意げに返した。








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仮面夫婦 たたらば @yuganda_kotuban

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