うまい! 美味い! 旨い!
「らっしゃい!」
小生、扉潜りて見ゆるは誠古風なかうんたぁがあり候。
して、めにゅうを見れば如何にも高き数々の逸品。写る版画を見るに小生が今まで食したことないものに違いない、と思ひ。
小生、鮭が好みにつき「生サーモン炙り丼」、1920銭を頼むにて候。
待ちし事10分、期待以上のものが現れ。
見事な逸品、まずは酢を付けずに食す。
これ、甚だ美味にて一瞬素に戻ってしまいそうになるも、ここで文体を変えれば大いに聴き手、混乱すると思ひ候。
その身、極めて美し、厚き、甘き。そして旨。口、蕩けるほど也。先に乗るいくらと言ふ魚卵もまた、よきものと思ふ候。
暫し後、改めて黒塩酢をかけ、食す。うむ、うまい。美味い。旨い! 迫真の声で叫びそうになるも、騒音とならぬよう、腹の底から堪える候。
小生思ひに、これまで食した生魚、あれらは偽に違いなく、今食した物こそ真の魚介であると独り納得し、頭内ではどんちゃん騒ぎをしつつも、米の一粒すら残さんとする勢いにて、素早く然れども丁寧に、完食す。
この食事に悲しむべきところもしあれば、それは素早く完食せねばならぬということ。飛行機場へ往く駆動リキシャ、その最寄への鉄道、その時間が迫ってゐる。
――おい不味いぞあと5分だ!
演技無き心中の音、つい漏れるほどラジオじゃなかった小生の心の臓は鳴り出して紳士としての態度、表向きは保ちつつ、一礼。会計を済ませて若干の心残りを思えども暖簾を潜る。
ええい戦前風の文体はもうやめだやめだ!
急いで駅に向かうぞ!
ラジオは猛ダッシュをかけた。
無事、間に合った。そして順調に駅を跨ぎ、大分駅へ。
肝心の空港行きバスは所定の時間より僅か10分の遅れのみで到着。空港までの道中も雪に阻まれる事なく平穏無事に済むこととなった。
恐らく夜を徹して行ったのであろう除雪作業に従事した数々の労働者に感謝の気持ちがラジオの中に沸き立つ。
さて、空港のロビーに着いたラジオは、最初来た時の見落としがあったことに気づく。それは、足湯である。
看板を見るとどうも無料らしい。では……! と思ったものの、案内の最期にはタオルは自前で、の文字が。
この時ラジオの手持ちに合ったのはハンカチ一枚のみで、両足を拭くのにはちょいと心もとない。
そのため、次こそは! という気持ちでその場を離れ、荷物預かり所に行くのだった。
……この奇天烈なサガも、まさか一か月以上連載することになるとは思わなかったサガも、遂に終わる時が来た。
次回に続く!
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