片恋バレンタイン
猫野みずき
第1話 「閣下」と「俺」
「たのむ。聞いてくれ」
夜中の四時に勝手に電話してきて、俺の安アパートに押しかけ、目の前で土下座しそうな勢いで頭を下げるのは、同級生の小暮だ。
「……今何時だと思ってるんだよ、閣下」
小暮は、いつもなら「閣下じゃない」と怒るのに、今夜は真面目な顔でまたもや勝手に俺の「布団」をはぐ。ちなみに、本物の布団はタバコの焦げを作って絶賛外干し中、俺はこたつをひっかぶって寝ている。小暮の目……これは本気と見た。
「……俺、何かしたのかな」
うつむく小暮。俺は、眠い目をこすりながらあくびをして、とりあえず真横に転がっていた缶ビールの残りを一口飲む。……炭酸が抜けて苦いな。
「とりあえず、話せよ」
「昨日、何の日かわかるか」
「ああ、……14日。14日ねえ。俺の家のカレンダーには2月に14日はない」
「すまん、萌え系妹キャラのカレンダーにうつつを抜かしてるお前に聞くのが間違ってた」
「……お前、たたき出すぞ」
小暮は、やっとにやりとしたが、すぐに真剣な顔に戻り、ポケットから何かを取り出して、こたつの上に置いた。
「なんだ、これは」
「駄菓子だ。チ〇ルチョコ」
「何が言いたい」
「もらった。彼女から」
「……本命チョコが、これ?」
「そう、これ。どうして、こんな駄菓子を……って、笑うな!。俺は真剣なんだ」
肩を震わせて大笑いする俺を、小暮はきっとにらんだ。
「俺のこと、好きじゃないのかな、美菜」
「はあ、はあ、いひひ……悪い悪い。お前がな」
俺は、ねじれた腹の皮を戻すように腰をひねった。
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