19. 霞ヶ浦ダンジョン②
杭打たちを見つけ、嫌な予感がした。
そして、その予感は的中する。
9回目の出陣式が終わると、早速、杭打が音頭をとる。
「今日の参加者は、30人くらいだから、基本的には5人組の6パーティーでダンジョンの攻略を進めよう」
「そうですね」
「それがいいです」
杭打の取り巻きたちは、杭打に対して、好意的であったが、俺の隣にいた冒険者は、冷めた目で杭打のことを見ていた。
「それじゃあ、今日の攻略が初めてだという人は――」
「あの、杭打さん!」と若い爽やかなイケメンが進み出た。
「ん? あぁ、吉本君じゃないか。どうした?」
「すみません。ここのダンジョンは、僕たちが攻略を進めていたんで、僕たちのやり方でやらせてもらってもいいですか?」
「あのね、吉本君」と杭打は呆れ顔で言った。「君はこのダンジョンの攻略にどれだけの時間を使っているんだい? 私が指揮を執れば、3日で終わるようなダンジョンだよ?」
「それは、その」
「まぁ、吉本君が何もしていないとは言わないけれど、ここは私に任せてくれないかな」
「でも」
「吉本君。あまり、余計なことに時間を使わせないでくれよ?」
俺の隣にいた男が、吉本という男の隣に立って、諭すように肩を叩く。吉本は諦めたように頷いた。
「わかりました。杭打さんにお任せします」
「うむ。それでいい。それじゃあ、今日の攻略が初めてだという人はいるか?」
吉本が下がる。彼の悔しそうな横顔を見て、俺は何とも言えない気持ちになった。
杭打は、一応はそれぞれの武器を見て、バランスの良い編成を心掛けているようだった。そして俺の『雷の杖』を見て、眉をひそめる。
「君のそれは、何の杖だ?」
「『雷の杖』ですけど」
「おいおい、冗談だろ。そんなものを使ったら、他の人が感電してしまうじゃないか。ちゃんと今回のダンジョンについて調べたのか? 調べていたら、普通、そんな武器を使おうとは思わないけどね」
「……すみません」
「いや、すみませんじゃなくて、武器を変えてほしいんだが?」
「わ、わかりました」
俺は武器を変えるために、武器庫代わりのプレハブ小屋に戻った。そして、危うく杖を叩きつけそうになった。壁にぶつかる寸でのところで止め、立てかける。
(あぁ、やべぇ)
上司のことを思い出し、胸が苦しくなる。正論と威圧的な態度で人を動かそうとするあの感じは、まさに上司と一緒だった。あんな奴とこれからダンジョンの攻略をするのかと思うと、気が重くなってきた。
「あいつ、ウザいよな」
突然声を掛けられて、俺はギョッとする。先ほど俺の隣にいて、吉本を諭していた男が剣を片付けているところだった。
「古参だか、何だか知らんけど、ああやって、毎回現場を仕切ろうとするから、あいつは、あいつのイエスマン以外には嫌われている」
「そうなんですね。あ、でも、似たようなことを言っている人がいました」
「でしょ? あ、もしも杖を使いたいなら、このダンジョンは『風の杖』が無難かも」
「ありがとうございます」
俺は『風の杖』を探し、手に取る。
男に目を向けると、彼は防具も脱いでいた。
「あれ? 帰るんですか?」
「ああ。俺には嫌いな奴とは仕事をしないというモットーがある。だから、あいつが来た時点で、俺の今回の攻略は終わり」
「そう、なんですね」
「あなたは、最近、冒険者になった人?」
「はい」
「そっか。どこに住んでいるの? 東京?」
「はい」
「なるほど。なら、もしも『冒険者』という職業を楽しみたいなら、別の地域のダンジョンに参加することを考えた方がいいかも。関東圏はあいつの縄張りになっているから」
「そう、なんですね。ありがとうございます」
「どういたしまして。というか、早く行った方がいいんじゃない?」
「あ、はい」
俺は『風の杖』を持って、プレハブ小屋を後にした。
集合場所に急いでいると、先ほどの男の言葉を思い出し、足が止まる。
『俺には嫌いな奴とは仕事をしないというモットーがある』
その言葉の重みを俺は知っているつもりだ。嫌いな奴と仕事をしたせいで、メンタルがやられてしまった過去がある。だから今回も、彼のように、さっさと辞めるのが正解かもしれない。
(まぁ、でも。数日我慢すれば、何とかなる……よな?)
自分にそう言い聞かせ、再び走り出した。
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