3話 すれ違う想い
リオネルに向いていたのか、環境が改善されたために相応の実力を発揮できるようになったのか、ティティのためという目標があったからか。何がきっかけかは分からないものの、リオネルは実力者のある冒険者として名を知られるようになった。
その日も驕らず実直に依頼をこなしたリオネルは、依頼の達成報告のために冒険者協会を訪れた。
報酬も受け取り冒険者協会を後にしようとしていた時、冒険者協会の支部長に呼び止められる。
「リオネル、少しいいか?」
支部長に応接室まで通され聞かされた話は、貴族から正式に雇用したいという申し出があるということだった。
その貴族は領民にも慕われており、支部長も好印象を持っており勧められた。
その場で決められることではないからと話を持ち帰った彼はティティに相談をした。
ティティがその貴族について調べると確かに評判は良く、誠実な人物であることが推測された。
「はー、俺もどこぞの貴族様に雇用されてぇなぁ」
「そうすりゃ安泰だからな。まぁ、そんな簡単に上手くいく話じゃあないが」
調査の帰り道、ティティは酒場のテラスに設置された机を囲んで酒を飲んでいる冒険者と思われる男性の会話を聞いた。
「おかえりなさい、ティー」
「ただいま、リオ」
笑顔で迎えてくれるリオネルにティティも笑顔で返した。
そしてティティは調査結果を報告した。
「リオは貴族からの雇用の話、どう思う?」
「金銭的、名声的には今よりもかなり好待遇になりますが、動きにくくなるため私たちには向いていないと考えられます」
リオネルとティティは兄弟として旅をしてきた。件の貴族はティティに関しても庇護下に置いてくれると言っていた。
だがティティは吸血鬼だ。そして吸血鬼は人間に害を及ぼす恐ろしい魔族として認識されている。討伐対象でもあり、見つかれば討伐隊が組まれるだろう。
吸血鬼の性質上、他者と生活を共にすることは正体が露見することにも繋がってしまう。
それを避けるには、貴族からの誘いは断るしかなかった。
「断りの手紙を出して他の町へ移動しましょう」
誘いを断ったからと言って強行手段を取るような貴族ではないらしいが、念のためだ。
「じゃあ準備を整えて町を出ようか」
リオネルも賛同し、2人は話し合って予定を立てた。
リオネルと同じベッドで横になり、彼の手を握りながらティティは眠っている彼の顔を見つめた。
そして、先日会った貴族の使いとの会話を思い出していた。
『確かに冒険者であれば融通は利きます。お兄さんは実力もあり大きな失敗などもされていないようですが、いつも無事でいられる保障はありません。私共のところでも危険性はありますが、負傷した場合には相応の補償も出します。仮に動けないような重症を負って障害が残った場合であっても、業務に関わり負ったものであれば生活の保障は致します』
雇用契約書を見せられ、口頭でも説明を受けた。
給与や待遇も、不安定でいつどうなるか分からない冒険者と比べるまでもなかった。
『もしお兄さんの幸せを考えるのであれば、説得してくださると嬉しいです。もちろん、ご家族であるあなたの生活も保障します』
仕事の内容に関してもいくつか候補があり、本人と話し合って詳しいことを決めていきたいと言っていた。
眷属は主人の影響を強く受ける。大した力を持っていないティティがリオネルを眷属にしても、能力はそこまで伸びないだろう。寿命は無くなるが、日の下に出ることは叶わなくなり人間と敵対することになる。
もし討伐対象にでもなってしまったら、彼を守ることができなくなる。
ティティはリオネルを手放すことに決めた。
しかし、リオネルにそれを言っても拒絶されることは目に見えている。
何も言わずに居なくなれば、必死になって探すだろう。
だがそれも魅了にかかっている間の話だ。
魅了には副作用がある。その副作用は魅了によって行動や精神を曲げれば曲げるほど大きくなる。正気に戻っても記憶が残っているために起こることで、己を好き勝手にした魅了した者に嫌悪と憎しみ、殺意を抱くのである。
そうならないように、ティティは定期的に【歯牙の魅了】でリオネルを魅了し続けていた。
幸いなことに、前にかけた魅了が解けるまでそうかからない。
魅了が解ける前日まで共に過ごし、採取依頼のために出かけると言って姿を消そう。
1週間ほど町とその周辺から離れ、その後リオネルの様子を探ろう。
魅了が解けて正気に戻ったリオネルがどう行動するかは分からないが、この町には良い人が多いからきっと大丈夫だろう。
ティティはそう思うことにした。
そして計画通り、ティティはリオネルの前から姿を消した。
夜のうちに町を離れて夜が明ける前に目星をつけていた洞窟で過ごす。
リオネルと過ごす前はいつもそうだったにもかかわらず、ティティは酷く不安を感じた。
「寂しいなぁ……」
ポツリと呟いた後、持ち出した鞄から毛布を取り出すと体にかけてティティは目を閉じた。
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