推しを全力で幸せにしたいだけの転生悪役令嬢、何故かヒロインに付け狙われています。

蓮上

第1話  誰かのプロローグ

「あら? おかしいわね……イベントが起こらないじゃない」


 少女は首をかしげる。おかしな話だ、何せ物語はここから始まるっていうのに。可憐なヒロインと美しい青年たちの、目くるめく愛の物語の幕開け。

 麗しく清廉な乙女は世界を見守る女神の声に呼ばれ、運命の出会いを果たす……。そういうシナリオだったはずだ。それなのに。

 その舞台となるはずだった中庭には、彼女以外人っ子一人見当たらない。時間を間違えただろうか? いいや、入学式のすぐ後のことだったはず。

 しかし、しばらく待ってみたものの誰もやってきそうにない。遠く聞こえていたざわめきも去り、辺りは静寂に包まれている。


「うーん……。まあ、いっか」


 物語と違う動きをするだろう駒のことはわかっている。きっと彼女が、シナリオ通り進ませまいと小細工をしているのだろう。

 彼女がどんな動きをしようと、結末は決まっている。イベントが一つ起こらなかったことくらい、些細なことだ。


「最後に勝つのは、私だもの」


 少女はクスリと勝ち誇った笑みを浮かべ、踵を返した。この後、物語が大きく変わっていくとも知らずに。

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