「君は本当に強いね。あいつはちょっと弱いからさ」
涼
強がった日々
「
「すまん」
待ち合わせに10分も遅刻され、怒っている私を全く無視するように、待ち合わせ場所まであと数十歩も無いのに、走るどころか、早足する様子もない拓真。
「まぁ、いいじゃん。
何とも冷めた態度だ。
「もう、映画、始まる!」
拓真と付き合いだしてもう3年が過ぎようとしていた。私は、
2人、恋に墜ちるのに、時間はそうかからなかった。今こそデートには遅れるし、最近はデートでも手すら繋いでくれないし、キスもセックスも何だか減った。そんな拓真の変化に、私は気付かなかった。
「最近、電話なくない?」
仕事の帰り、居酒屋で、熱燗を飲みながら、少し酔っぱらった私は、拓真に愚痴をこぼした。
「良いじゃん。毎日会社で会ってんだから」
「そらそうだ」
私は、問い詰めるのをやめた。あんまりしつこい女は嫌われる。きっと言い伝えられてきた事に従えば、道は開ける。なんて、ちょっと強引に自分に言い聞かせた。そんな感じが、ここ何ヶ月か、続いている。
そんな時…、
「ごめん。栞、今日の約束、キャンセルできない?」
それは、裏切りとさえ思えた。何故なら、その日は、私の誕生日だったからだ。
「なんで?だって今日は…」
「ごめんて。今度必ず埋め合わせするから。じゃあ」
そいうと、電話は、一方的に切れてしまった。気の利かない拓真に期待しないで、自分で買ったケーキがホールでテーブルの上を飾っていた。
(埋め合わせ…か…期待するしかないか)
何とか怒りを収めた。…と思ったら、急に涙が流れた。こんなに哀しいなら、こんなに寂しい誕生日になっちゃうなら、こんな風に1人で泣くんじゃなくて、我儘でも、例え、本当に仕事とか、家族が入院したとか、断わらざるを得ない理由だったとしても、電話口で、泣けば良かった…と私は自分の強がりに心底嫌気がさした。
「おはよ、栞。昨日はゴメン」
「もう、特別だよ?すっごい高いものご馳走してよね!」
次の日、あんなに『泣いてやろう』と『散々罵ってやろう』と心に決めて、出勤したのに、いざ、拓真を前にしたら、冗談めかして、へらへら笑う私がいた。なんで…なんで言えないんだろう?甘える…なんでそれが出来ないんだろう?きっとその方が可愛い。女の子っぽい。きっと私みたいな女より、ほとんどの男は、そう言う少し我儘で感情豊かな女が好きなはずだ。…そう、解っているのに…。
けれど、私の強がった日々が、あんなにも哀しい別れの理由になるなんて、思いもしなかった。
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