第10話 勇者と聖女とその他一名(2)
それとどうでも良いけど、隣に現れた大陸じゃなくて統合されたんだからね。確か「神さま」を自称するヤツが異世界大陸の人々にも伝えてる筈なんだけど。
……ああ、言われても理解出来なきゃ意味ないか。説明をテキトーに聞いてはいはい相槌打って、後から「聞いてない!」とか「ちゃんと説明されなかった!」ってキレるアホどもと一緒か。
そんなことを考えていると、興里那さんが携帯端末でその動画を検索して出してくれた。そうそう、それそれ。
素手でオリファント戦車のモジュール式複合装甲をゴリゴリ剥がして操縦者を引き摺り出すとか、明らかに人間業じゃないよなー。
魔王様だし、その程度は当たり前か。それにある意味では暴虐と言われても仕方ないかも。相手はテロ組織なんだけどね。
というか本当にじいさま五月蝿いな。
「なので、勇者と聖女様には、その魔王の討伐をお願い致します!」
「ゲフゲフガハグフオウェッファオエッフォウウェッフォイ!」
はい、お約束。いきなりそんなこと言われて「はいそーですか」なんて言うバカなんていないよな。厨二病じゃあるまいし。
あ、でもそれに罹患してる
そもそも常識を弁えていなくちゃ、厨二病にはなれんよ。どうすればそれに見えるかを理解しているから。
それが出来ていないヤツは、ただの妄想癖があってそれを信じ切っている頭のおかしな異常者だ。
「イヤだよ。以上。帰るから戻してくれないか。それとも自力で帰れと?」
「ガフゴヘゲハホヘオェッフォオェッフェゴヘッファイ!」
よって俺は、そのコスプレ女の要求をバッサリ切り捨てた。
「戸惑う……われるのも無理はありません。我らとてこのようなお願いをするのは心苦しいのです!」
「ガッヘゴッヘゲボエッヘオウェッフォガハゴエッファイ!」
だがそれでも、コスプレ女は語り続けている。なんか定型文っぽいな。言うのが義務なのか? まるで
「いや戸惑ってないぞ。はっきりと断ってるんだけど。人の話し聞いてる?」
「ガハウエゲガゴボゲガグフォヘオエッハウウェッハグヘグハゲヘ!」
こいつ判ってて聞こえないフリしてるようだな。あと畳み掛けてウッカリ発言を誘い言質を取る気だ。
そんなのするかよ。なんでいきなり喚び出されて無茶苦茶な要求を聞かなきゃならんのだ。当たり前に無理だろう。
「この崇高なる使命のためならば、
「ウェッホアフォッヘブガッハゲハッホゲボグヘッハ!」
ノって来たのか、自分の言葉に陶酔しているのか、言いながら天を仰ぐ謎ポーズを取りつつ胸を張るコスプレねーちゃん。それにより無駄にデカい乳がぶるんと揺れた。
まぁおっぱい星人なら心が揺れたり陥落するのだろうが、残念ながら俺はそんな異星人じゃない。
「いや要らないです間に合ってます完全に嗜好の外です論外です。そう言えばホイホイ付いてくバカ
「アッフォイウワッフォイヘブシャッホイゲハッフォイ!」
あーもー、このねーちゃん、いわゆる会話が出来ない人種なのか? 喋るたびにぶるんぶるん乳揺らして目障りだし気持ち悪いし。
やっぱり胸は菖蒲くらいのが一番だ。何度見てもそう思……痛い痛い痛い菖蒲さんや抓らないで気持ち良いから。
「もちろん、引き受けて下さいますよね! 勇者様と……そちらの荷車にいらっしゃる聖女様!」
……は?
コスプレ女は貼り付けたような笑みを浮かべ、俺と興里那さんを見詰めている。そしてサンタ髭ジジイの咽せ込みは、やっと落ち着いたようで静かになった。
「え? なに? 聖女? 私が?」
巻き込まれたのであろう自分には関係ないとばかりに、携帯端末で色々していた
俺だって今の今まで勇者が俺で、聖女が菖蒲だと思っていたし。
「さあ勇者さま、図々しくも貴方さまの傍にいるその女から離れて
口元に笑みを浮かべて、手を差し出すコスプレ女。その
「何をしておられるのですか、勇者さま。そのように穢らわしい女は貴方さまに
こいつは、いったい何を言っているんだ。
その言葉に一瞬で頭が沸騰した俺は、続けてそう言うコスプレ女に、殺意を込めて睨む。それにより、コスプレ女の背後の石壁が弾けて穴が空いた。
「そそそそそのように『死の穢れ』を撒き散らす、あああ悪臭漂う女の傍に貴方さまはいるべ……
能面のような表情そのままに、俺に手を差し出すコスプレ女。努めて表情を消してるようだが、完全に隠せてないな。
あと、汗が凄くて厚塗り化粧に筋が出来てる。あんまり良い化粧品を使ってないんだろうなぁ。
まぁそれより。
その姿を目視して、その声を聴いて、怒りで熱くなっていた心が急速に冷えて行く。
人は怒りの
「――黙れよ」
そんな極低温の怒りのままに、俺は呟いた。
『死の穢れ』ねぇ。良く言ったもんだな。
確かに菖蒲は小さい頃から『見えない人』――いわゆる死者の魂や妖怪変化に憑かれ易い体質だし、油断していればうっかり『あっち側』に連れて行かれそうになったりもした。
そして今も、この多数の血が流れた場所に居る人々に寄り憑かれている。肉体をそれらに乗っ取られていないのは、法力僧の端くれである俺が傍にいるのも一因だが、なにより菖蒲自身が努力して、それらに負けないための能力を身に付けたからだ。
それに、死者を『穢れ』と呼ぶな。それは、『彼ら』に対しての冒涜だ。
「傍に来いだと? なんでそんな気持ち悪いことしなきゃならないんだよ。この話しはもう終わっているんだ。俺はお前らの手助けなんぞしない。魔王をなんとかしたいならそっちが勝手に頑張れ。他所様を巻き込むな」
断られる筈がないとでも思っていたのであろう申し出を無碍に断る俺を、コスプレ女は驚愕と共に言葉を失い、続けて歯を食い縛りながら睨んでいる。
きっと今までもそうやって召喚して、浮かれる奴らの相手をして来たのだろう。その証拠に、この場に無数に漂っている「見えない人々」の中に、どう見ても現代の日本人がいて俺と菖蒲に警告している。
「何故断る……断られるのですか!? あなた方にとって、召喚されるのはこの上ない誉ではありませんか! 今まで召喚した者たちは貴方さまほどの『力』はなかったけれど、殊の外喜び快く引き受けて下さいました! 貴方さまも同じようにするべきです!」
召喚されるのって、いつから誉れになったんだろう。凄く初耳なんだけど。
「一緒にしないでくれ。迷惑だ。あとこれってちゃんと帰れるのか? 専門外だから確証はないが、此処にある円陣見る限り一方通行みたいだが」
俺の拒絶と円陣の構造に対しての考察に、目を見開くコスプレ女。あ、そういえば物凄く今更だけど、こいつらの名前聞いてない。別に覚える気がないから構わないが。
「……我、イエレミアーシュ・エリク・ネフヴァータルが娘、ドラフシェ・エステル・ネフヴァータロヴァーが命じる」
図星を突かれて否定出来ないのか、それとも埒があかないと判断したのか、そのコスプレ女は何やら呪文らしきものを唱え始めた。
こういうのの対処方法は概ね決まっているよね。それにあれはきっと魔法だから、それに類似するもので防げる筈。
「刻まれし制約よ
「
瞬間。俺の首に何かが巻き付き、それが表皮に浸透するように染み込んで行き――
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