第06話 消えた退魔師一家 部下の訪問(2)
言ってるだけだけで、実際は辞める気は一切ないけどね。給料美味しいし。
残念ながら、私は情熱を持ってこの仕事をしているわけではない。だからといって手を抜いたり、必要なことをしないというのではなく、あくまで仕事は仕事として熟している。
仕事が趣味だとか、仕事に生活時間を取られるとか、仕事でプライベートを犠牲にするなんて真っ平だ。
それに「情熱」とか「熱意」とか「不撓不屈」とか、そんな精神論だけでご飯を食べていけるほど、この世は甘くない。
だからといってそれを全否定するつもりは毛頭なくて、必要なのは、どのような方策をもって事にあたり、そしてその精神論をどのように活かして効果を出すのか、なのだ。
簡単に言えば、ただ「頑張れ」と言われてもどうして良いか判らない。具体的に「なにを」、「どのようにして」、「どの程度」行えば良いのかを「解り易く」伝えればいい。
それが出来る指導者って、実際は希少なんだけどね。
おっと、話がズレてしまった。
そんなわけで、私はトランスミッションをガコガコしながら、クソじじいな長官サマのSUVを運転して、その友達宅へと向かっている。
ちなみにトランスミッションをガコガコするの、慣れるとちょっと楽しい。メカ操ってる感があるから。
それで、実を言うと、その旧友宅がある秘境の奥に行くのは初めてではない。
最初、クソじじいな長官サマに半ば拉致されて、強制連行されたのだ。
「天国に連れてってやんよ」
とか、いつの時代のヤンキーだとツッコミどころが満載だけど、そう言われちゃったら、ああ、遂に私はこのじじいの情婦になっちゃうのか。恋人いない歴が年齢なのに、よりによって相手がこんな変態ジジイとか、ないわー。とか覚悟完了したものだ。
そして実際連れて来られて、思い知った。
なにこの天国。
出されるご飯は美味しいし、じじいの友人って人が持って来るお酒は美味しいし、見たことのない美味しいお肉でBBQしてくれるし、なにより野菜がウマー!
それを焼いてくれる超絶美人の
あと、その友人の孫が格好良い。隣にやっぱり美人さんが連れ添っていて、夫婦か! ってくらいの阿吽の呼吸で食器出しとか料理してたけど。
それから
あと犬なのに酒豪。
クソじじいな長官サマやその他の
いうて、私も大概酒豪だから、同じく最後まで付き合っていたけど。
あんまり関係ないけど、その作務衣のじいさま、何処かで見たことがあるようなないような気がしたけど、それはこの際どうでも良いか。
そういう事実上の美味しい目に遭っているもんだから、本音を言えばじじいな長官サマを迎えに其処に行くのは、実は嫌じゃない。
なにしろ美味しいご飯とお酒と超絶美人とイケメンとイケ犬に逢えるのだ。嫌なワケがない。
そして私は、そのイケ犬を心の恋人と勝手に思っている。
もうね、そのイケ犬になら私の初めてをあげてもいい。この前も初めてのチューと初めての膝枕をあげたし。チューといっても、顔をメッチャ舐められただけなんだけど。
あ、じじいはどーでもいい。傍に寄らないでくれるかな。
そんな風に色々楽しみに思いつつ、そのじじいの友人宅へと向かう。そしてそろそろ到着する頃になり、異変に気付いた。
道なりにこのまま進めば、綺麗に手入れされたその友人宅が見えて来る筈なのに、一向にそれが見えない。
そのまま車を走らせると、その疑問は更に深まった。
見間違いかとも思ったがそうではなく、その傍まで来て、疑問が確信に変わった。
その友人宅は見えないのではなく消失していて、代わりに鬱蒼とした樹海が、まるで切り取られて挿げ替えられたかのように出現してその姿を晒している。
その明らかな異常事態に、私の理解が追い付かない。今までそんなのは色々あったし、じじいの所為でそんな目に結構遭って来たのに、今回が特別に特大だ。
そんな現場を目の当たりにして、私は当たり前に呆然とする。
だがすぐに我に返り、取り敢えずじじいの携帯端末に連絡しようと、
おっと、ポン刀と太刀も積んでたの忘れてた。銃刀法? そんなの知らない。私は警察庁長官官房のキャリア官僚だよ。幾らでもなんとかなるし。大人は清濁併せ持ってナンボなのよ。
それはともかく。
こういうときの切り替えの速さは、我ながら流石だと思う。
そんなことをしていると、
「アヤメちゃん、アヤメちゃんが……」
なにやら手荷物をぶち撒けて、絶望しているようにへたり込んでいる美少女が目に付いた。
あれ? この子って、確かじじいの友人のお孫さんが、すんごく嫌っている近所の娘じゃなかったっけ。
名前は思い出せないけど、確か品川区の臨海部再開発街区みたいだった気がする。どうでも良いから覚えていないな。
そんな感慨に耽っていると、その再開発街区みたいな名前のその娘はポロポロ泣き出し、
「アヤメちゃんを、返してよー!」
天を仰ぎながら、そんなことを喚き始めた。
いや一体突然なに言ってんだコイツは。
私は独白し、更にはアホだなーと思い、取り敢えずじじいの携帯端末にコールし……ようとして、そのまま動きを止めた。
何故なら、私を中心に光る真円が地面に現れ、やがてそれが光の奔流となって私を包んでしまったからだ。
そして気付いたときに私は、じじいのSUVごと見たこともない空間にいた。
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