ウィッチクラフト★メルヘンプリンス
美崎あらた
第1話 いばら姫の王子様
俺は――
「どうやら、こうしちゃいられないようだ。いばらの城が俺を呼んでいる」
前世の記憶とともに、俺は俺に与えられた能力とこれからなすべきことを瞬時に理解し、そして受け入れた。
理学部棟の窓からキャンパスを見下ろす。
これから目指すべきは中央の時計塔。そこに、理想の姫が待っている。
「もしかしてそこにいるのは、伊原木ツムギさんですか?」
「?」
ここは理学部生物学科の建物の裏。医学部のなんだかわからん建物に挟まれて薄暗い通路。人気はない。
「隠れてないで姿を見せろ」
「いやですよ。ボクはこれからあなたを暗殺するんですから」
理学部生物学科の建物の壁を一気に駆け上がる。俺が足を踏み出した場所から、瞬時にいばらのツタが生えては消える。即席の足場だ。
「ほう、よくここがわかりましたね」
はたして、そちらの建物の屋上には黒い男が立っていた。
『
俺たち王子様には、それぞれの物語に即した能力が与えられているらしい。その能力と発動条件、効果については、先ほど習得した。生まれた時から知っていたかのように、いつのまにか自分のものとなっていた。
「仕方がないので、暗殺は諦めて、直接ぶっ殺します」
彼は足元に置いた無骨な黒い棺に手をかける。
「動くんじゃねぇ」
瞬間、床を割って飛び出したいばらが男を絡めとる。
白い肌に、赤い血が垂れて流れる。しかし――
「ちょっと遅かったですね」
黒い棺が勢いよく開き、七つの小さな黒い影が飛び出す。
『はらへった』
『あらやだいいおとこ』
『もっとくれ』
『おいこらなにみてんだ』
『めんどくさいなぁ』
『おまえいいふくきてんな』
『おれがいちばんつよい』
黒い影は各々好き勝手なことを言って、その手に各々好き勝手な鈍器を握っている。斧、釘バット、バール、バールのようなもの、エトセトラ。とにかく殴られたら痛そうなありとあらゆるものを選んできたらしい。
「殺せ」
彼の一声に、七人のこびとが『ヒャッハー』と叫んで俺に向かってくる。
◇◇◇
いばら姫は、最初からねむりの呪いをかけられたわけではない。
その王国には13人の魔法使いがいた。姫の誕生を祝う食事会に招かれたのは12人。
11人の魔法使いが姫に11の美徳を与えたとき、招かれざる13人目の魔女が登場し、自分が招かれなかった妬ましさ故、姫に死の呪いをかけて立ち去った。
悲しみに暮れる王と王妃に、まだ姫に美徳を与えていなかった12人目の魔法使いが声をかける。
「死の呪いを完全に消し去ることはできません。しかし、和らげることならできます」
こうして姫は、死ぬ代わりに百年の間眠り続けることになるのだった。
◇◇◇
だから、俺に与えられた
11の祝いと1の呪い、そして1の祈り。
正直、戦闘において役に立ちそうなのは13番目の呪いくらいで、他は飾りだと思っていたが、今この瞬間、使い方がわかった。
「消えろ」
7つの異能を発動。そのそれぞれが七人の凶暴なこびとを消滅させる。
「な……に……?」
動揺する黒装束の男。
奴の異能――七人のこびとは、『七つの大罪』に対応している。
暴食、色欲、強欲、憤怒、怠惰、嫉妬、傲慢。
大学生の
俺はそのそれぞれを打ち消す美徳をぶつけたのだ。
暴食には節制を、色欲には純潔を、強欲には寛容を、憤怒には忍耐を、怠惰には勤勉を、嫉妬には感謝を、傲慢には謙虚を。
かつて魔法使いが姫に与えた美徳。それが俺を守ってくれた。
「引き算すると、異能はあと4あるわけだが、出し惜しみせず13番目の死の呪いをかける――」
「さよならだ――『
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