ハッピーバースデー、オリオン
最悪だ。
僕は普段この言葉をあまり使わない。とっておきのタイミングでだけ使いたいから。だけど今がまさにそのときだ。
最悪の誕生日パーティーだ!
僕の家は狭いから、パーティーは郊外にあるおばあちゃんの家で開かれた。
家族も親戚も今日ばかりは仕事を休んでおめかししている。なのに母さん達の化粧は涙で溶けて、お祝いで集まったはずなのに、すっかり僕のお葬式みたいだ。
母さんが用意してくれた僕のエメラルド色のタキシードも、昨日は綺麗だと思ったのに、不思議と今はくすんで見える。
「オリオン、寂しくなるね」
「夜の国へ行っても学校の先生の言うことをよく聞いて」
「きっとみんな悪い人じゃないからね」
どれもさっきから六回以上は言われている言葉だ。僕はだんだんイライラしてきた。
今ここにいるのは、昼の国の住人の他には十二歳までの子どもだけ。昼の国で開いているパーティーだから当然だ。
死んだおじいちゃんは、一体どうして僕にオリオンなんて名前を付けたんだろう。僕の親戚はこれだけ昼の国に暮らす人が多いのに。僕が夜の国の住人に選ばれたのは、夜に見える星座みたいな名前のせいだったんじゃないか?
ああ、時間が惜しい!
僕はプレゼントもご馳走もバースデーケーキもいらない。ゲームソフトだけはちょっと欲しいけど、それ以外は何もいらない。だからこんな楽しくないパーティーなんて早く終わればいいのに。
ケーキを取りに行くとき、友達のジャクシーと目が合った。
ジャクシーは同じ聖歌隊のメンバーで、夜の国に家族がいる。だから普段は夜の国の学校に通っていて、僕とは何もかも正反対。でもこれから先、もしかしたら僕らは同じ学校に進むかもしれない。
てっきりジャクシーとはお別れだと思っていたから、ほんの少し気まずかった。
「貰った花束、返したほうがいいかな」
「気にしないで。僕はママが買ってきたのを渡しただけ。明日からもよろしく、オリオン。さよならにならなくて良かった」
そう言ってハグしたら、なんだか少し、不思議だけど、涙が出そうになった。ジャクシーとはお別れじゃないのに。
うるんでぐらぐらしてる視界に、ぼんやりと父さんの顔が入る。いつも青白くらい白い肌がやけに赤い。特に目の周りが。
僕と目が合った父さんは、口の形だけで伝えるように「ハッピーバースデー」と囁き、そのままナプキンを握って俯いてしまった。
ああ、そうだ。
家族とも親戚とも、ここにいるほとんどの人とはもう、これでお別れ。みんなにとって僕の誕生日は、これが本当に最後なんだ。
そのときようやく、これは本当に僕のお葬式なのだとわかった。
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