第一章

1.おなか痛いのポンポンポン、パーン!

〝チキュー星〟が、まだ〝地球〟と名乗っていた頃。

 ある日、世界は震撼した。


 突如として世界中の都市の上空に巨大な宇宙船が出現したのだ。

 人類史に残る宇宙人との初めての接触である。


〝ユニバース・レギオン〟―――通称〝ユニオン〟を名乗った彼らは、SF映画見すぎな地球政府がウッキウキで期待していた侵略行為などは一切せず、基本的に干渉はしない割とクールな関係を保つ方針だった。


 世紀の宇宙人との初接触は挨拶を兼ねたお茶会であっさり終了。

 宇宙に生きし生ける者みな兄弟的な熱い握手を交わすこともなく、彼らの超技術が地球に入ってくることもなかった。

 結局、地球側ができたのは記念に惑星名を〝チキュー星〟に改名し、祝日を一つ増やしたことくらい。


 幾年が経った今現在でも車が空を走る予定もなければ、美少女メイドロボと恋に落ちるような全人類の夢が叶う予兆もなく、テレビは相変わらずブラウン管。

 平々凡々でなにも変わらない日常が、今日も繰り返されていた。


 だから一坂もまさか、自分の身にあんなことが起こるなんて思いもしなかった。



 腹から何かが出てくる。

 一坂は布団の中でそう直感した。


 時刻は深夜。

 安アパートで使い古した煎餅布団に包まり、眠りこけていた時だった。


 腹部に感じたのは生命の鼓動。

 しかし、それは愛おしい命の誕生を予期するものではない。


 獰猛で残忍な怪生物―――エイリアン。


 一坂の脳裏にあの超有名パニック映画の醜いクリーチャーがよぎった。

 腹にできた不自然な凸が、さする手を元気にタッチしてくる。


「ちくしょったれ……俺がいったい何をしたってんだよ~……」


 さっきまで夢の中で儚げな金髪碧眼の美女と宇宙を股にかけた大スペクタルアバンチュールでぱやぱやしていたというのに。

 一転して何の脈絡もなくこのザマである。


 思えば昨日から不運続きだった。

 バナナの皮で転んだり犬の糞を踏むなどの定番から、絡んできた不良連中と喧嘩になったり路駐してたバイクを盗まれたり、それはもう散々。


 まあこんな日もあるさ。

 そう気持ちを切り替え、明日からまた頑張ろうと床に着いたというのに、どうやら不運の星は彼の頭上でもう一泊していくらしい。


 しかしとて一坂も、このまま何もせず内臓パーンする気はない。

 自慢の腹筋で圧殺を試みる。


「ふんっ!」


 おなかが痛くなった。

 心なしか腹の肉を掘る速度が速まった気がした。


「嫌だーまだ死にたくないーっ! ……ん? まてよ? 死んだら詩織しおりに借りた金返さなくてもいいんじゃ……ってやっぱりいやだーっ!」


 一瞬クズい発想が頭を過ったが、やはり命は惜しかった。

 こんな彼を見たら、詩織という幼馴染もほとほと呆れてしまうだろう。


 そーこーしている間にクリーチャーとの対面まであとわずか。

 絶望の最中、一坂の脳裏に浮かんだのはなぜかまりも羊羹だった。


 そして、ついに―――






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