宇宙が繋いだ in ベイダー ~俺の娘はエイリアン!?~
おきな
プロローグ
指名手配映えする人相とカラスのような目つき。赤い前髪と黒髪のツートーンという謎髪質と、人よりも少し金に汚いという点を除けば、まあ普通の男子高校生だ。
「パパー」
彼女はいない。
現在は木造のボロアパートで一人暮らし。成績は下から数えた方が早くいつも赤点ギリギリなのだが、目下の悩みは今月の家賃をどう工面するかだった。
「パーパー」
彼女はいない。
何かと小言が多い保護者気取りの幼馴染はいるが、生憎あの女とはそんな青春を感じさせる甘酸っぱい関係ではない。
だから一坂は異性と恋愛関係になったことはない。
「ぱあああぱあああぁぁっ!」
何度でも言う。
彼女は、いない。
しかし………
「うるせええええっ! 俺はパパじゃねぇーっつーの!」
娘は、いる。
正確にはその後ろに(?)がつくのだが。
一坂の家の四畳半に、ぺたんと座っている芋ジャージ姿のその少女。
見た目から歳は一坂と同じか少し下くらい。腰まである毛先に行くほど色を濃くするつやつやの金髪と、あどけない苺のような甘い顔立ち。翠玉色のぱっちりお目めは煌めく星々のように輝き、その透明度は吸い込まれそうなほど美しい。
まるで絵本から出てきた天使か妖精。
しかし現在、その神秘的なまでに整ったお顔は一坂の怒声にびっくりして、涙と鼻水でぐじゅぐじゅだった。
「アイヤーその、なんだ、えーと……泣くなミカン! 頼むから!」
慌てふためき、ミカンという少女に懇願する一坂。
生憎彼は〝赤ん坊〟の扱いはからっきしだった。
シャキン!
「へ?」
一坂の顔面スレスレを、謎の黒い物体がもの凄い勢いで通過していった。
背後で何か重いものが畳に落ちた音がした。
テレビだった。ブラウン管の箱が真っ二つに切断されていた。
「……………………」
一坂は口をあんぐりと開け、その長く伸びたものの発生元を辿った。
わかってはいたが、ミカンだった。
彼女はえぐえぐ顔で鼻をスンスンすすり、細い腰から伸びた漆黒の尾を心情を表すかのようにぶんぶん振っていた。テレビを寸断した切れ味は今宵も生き血をすする妖刀のそれ。まるで恐竜の骨格標本を黒く塗って、テカリ加工を施したかのような禍々しいフォルムだった。
絶対にデンジャラス&クライシス。
「お、おーけーおーけー。とりあえず落ち着いてその尻尾をしまってくれ。な?」
ぐすん………こくん。
凶悪な尻尾が掃除機のコードのように引っ込み、跡形もなく収納された。
一坂は、物理的にどうなってんだ、という疑問をとりあえず脇にやり、警戒レベルを一段階下げた。
「よ~しよし、いいこだ~」
猫なで声で目頭に溜まった涙をテッシュで拭いてやろうとする。
ジュウ~……。
「あ熱っつ! そうだった! こいつの涙は何でも溶かす強酸なんだった!」
ティッシュは一瞬で蒸発。
ヤバい涙が指を掠め、激痛に床をゴロゴロ転がった。
「こんの〝エイリアン〟が! あと少しで俺の指の数が減って、危うく妖怪人間になっちまうとこだったじゃねーか!」
…………ぐず。
「あああごめんごめんごめーん! 蜜柑でも食って機嫌直しておくんなはれ!」
「!」
ミカンの注意が一気にオレンジ色の果実に向いた。
目が〇(←こんなん)になっている。
現金な話だが、彼女はすでに心を奪われていた。
ぱくん。もぐもぐもぐ………ぱあぁぁ~。
ミカンは大好きな蜜柑を頬張り、ニコニコ笑顔の夢見心地。
泣きべそなんてさよなら、である。
そんな彼女とは対照的に部屋の中はすでにボロボロ。天井には凄惨な大穴が空き、涙によって溶解された壁や家具がハチの巣になっている。
ついでにテレビも真っ二つ。
かろうじて破壊を免れた時計が午前七時半を指した。
「パパー!」
ご機嫌ちゃんのミカンが一坂に、どーんと体当たりしてきた。
にっぱっぱーの満天笑顔で纏わりつき、猫のようにごろごろ甘えてくる。
(………パパじゃねーっての)
一坂はちゃぶ台にもたれながら頬杖を突き、心の中で悪態を吐いた。
口に出したら今度こそアパートがぶっ壊れちゃうから。
(なして俺がこないな目に……)
トホホ、と肩を落とし、おなかをさする。
別に穴が開いてるとか内臓ぶちまけたとかそういうわけではない。
しかし、状況証拠的にミカンは一坂から生まれ(一坂は認めていない)、彼を父親(これも認めてない)と認識しているのだ。
世界初、エイリアンの美少女を生んだ男 一七の春。
普段の一坂なら金儲けの一つでも画策するところだが、そんな気力はなかった。
昨日までは〝チキュー星人〟らしい、平穏な日々を過ごしていたのに。
そう。
一坂の日常は、今朝目を覚ました時点で、わりとお気楽に崩れ去ったのだった。
これは辺境の惑星〝チキュー星〟で繰り広げられる、二人の親子(?)の物語。
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おきな
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