土曜の昼下がり
土曜の昼下がり。部活もないので家に居る。
居間の卓袱台の前に珍しく、姉貴が寝転がってテレビを見ている。よっぽど気を紛らわせたいのか知らないが、こんな時間じゃ大した番組はやってない。テレビに映っているのは、ドキュメンタリー番組だろうか。画面の中では大きな図面が貼られた黒板を前に、沈黙した社員を見て会議の司会者は壇上で困り果てている。
「蒼ちゃーん、適当に回していいよー」
寝っ転がりながら姉貴は言う。リモコンをいじっていると、時代劇らしき番組にあたった。この居間十数個分の馬鹿でかい和室には、一面に花鳥風月の描かれた襖がある。和室の一番奥、一段上がったところに座る、如何にも偉そうな人は襖絵を描いた職人らしき人に褒美をとらせた。
「あ、そーだ。自転車借りてる御礼しなきゃね」
姉貴の言葉に相槌を打ちながら、またチャンネルを変える。これは、オレでも見たことのある刑事ドラマだ。
──ペンネーム、加々実都はお二人が合同で使っていた名前で──
黒服の刑事が言っている台詞にはなんとなく覚えがある。刑事は更に続けて喋る。
──亡くなったお姉さんの本名は桜さん。
そして妹さん、つまりあなたの本名は──
「椿です」と刑事と対面する女性は答える。ここで姉貴は何か思いついたらしく、大儀そうに起き上がって、机の上に置いてあった黒い、平べったい箱を渡してきた。
「これ、宮田さんから貰った滝間屋さんのお菓子。自転車の御礼に半分食べな」
そう言うと、また姉貴は寝っ転がる。宮田さんは姉貴の会社の同僚だった気がする。確か姉貴の原付が壊れた原因に絡んでた人だ。ならこれはお詫びの品ってことなんだろう。
幾らかして、刑事ドラマの方はより張り詰めた空気を帯びてきた。やがて、テレビの中の黒服の刑事は、右手の平で向かいの女性を指して一言。
──あなたは、妹の椿さんなんかじゃない。姉の、桜さんですね──
そうして向かいの女性は動揺する。これを見た姉貴は話の筋を思い出したらしく、こう言った。
「これさ、一人で二役演じてんだよ? やあー、凄いよねー」
暫くして、自分の部屋に戻ったオレは、貰った箱の中に一本だけ入っていた一口羊羹を、掛けてあった学ランのポケットに入れた。ちなみに、粒餡の嫌いな姉貴は箱の対面の今川焼きには手をつけていなかった。
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