第98話 先輩冒険者の戦い方は理解できない
さて、受けた依頼はコボルトの討伐。コボルトは小型の二足歩行する犬の魔物である。ゴブリンと似たようなものではあるが、コボルトの方が知能は高いし、すぐに仲間を呼んで徒党を組む。初めから群れていてもゴブリンは仲間を呼ぶ事は無いし、そういう点ではコボルトはゴブリンよりも厄介なのだ。
そして、ゴブリンとコボルトの最大の違いは、必ず群れのボスが居るという点である。ボスともなると普通のコボルトよりは強いし、ボスを中心に穴はあるもののそれなりの策略も使ってくる。それがゆえに、銅級冒険者対応の依頼となるのである。
さて、コボルトの目撃された場所に着く前に、マオはマスールから簡単に近接武器の戦い方を教わっていた。
事前知識というものは大事である。いきなり実践を見せたとしても、基礎が分かっていなければ動きだけを真似して大惨事になるという事があるからだ。基礎を理解していれば動きの理由が分かるので、それを臨機応変に組み立てられるようになる。マスールも性格が悪いだけで、冒険者としての基礎はしっかりしていたのである。意外と頼りになる男だった。性格さえ問題なければだが。
「爪は片手だけで扱うから、力を乗せた攻撃は行えねえ。その代わり、両手でバラバラに攻撃を行う事で隙を小さくできるって利点はある。お前さんはスピードがあるからパワーアタッカーの俺とはタイプが違う。どこまで参考にできるか分からねえが、まあしっかり見といてくれ」
というわけで、マスールは途中で見つけたはぐれたウルフ一体と戦闘を始めた。ウルフはスピードアタッカーのタイプなので、マオやキリーと同じタイプである。
というわけで、ウルフが先手を取る。マスールほど冒険者ともなれば、鉄級冒険者でも相手できるウルフなど瞬殺である。
だが、今回はマオに戦闘を見せる目的があるので、初撃はわざと躱すだけにする。攻撃を躱されたウルフは、着地後すぐにもう一度飛び掛かる。マスールは今度はそれを斧の背で受け止める。マスールの攻撃は重く、ウルフの骨が砕ける音が聞こえ、吹き飛んでいく。それでもウルフは回転して受け身を取り、再度攻撃を仕掛けてきた。すごい根性である。
「珍しく諦めが悪いな」
最後はマスールの兜割が炸裂して、ウルフは息絶えた。マスールは息を乱しておらず、余裕であった事が窺える。改めて、元銀級冒険者の凄さを目の当たりにしたのである。
「とまぁ、こんな感じだ。分かったか?」
「いいえ、分かりませんでした!」
マスールの質問に、マオは即答だった。
「はっきり言いやがるな。まぁ、嬢ちゃんが言うには初めて武器を使って戦うらしいからな、分からねえのも無理はないか」
マスールはぽりぽりと頭をかいた。
まぁ一回実戦を見せたという事で、きっちりと後処理をした後、本題のコボルト討伐へと向かう。コボルトもゴブリンの群れくらいの数、大体30体前後を一つの群れとして形成する。大所帯ともなれば100体を超える事すらもある。
今回の討伐依頼のコボルトは大体40体くらいである。
「割と普通な群れだな。これくらいならさっさと終わらせられる」
「そうですね。僕は僕でやらせてもらいますので、マスールさんはマオさんの事をお願いします」
「はあ? ……だが、そういう約束だったな。仕方ねえな」
マスールが嫌そうな顔をしながら反応するが、今回の依頼はマオの実戦経験を積むためのものである。キリーの方が武器のタイプは近いが、腕前が離れすぎているので参考にならないのである。というわけで、方針が決まった事で討伐開始である。
コボルトもゴブリンと同じ、徒党を組んで隊商などを襲う。旅人の安全を脅かす存在なのだ。可哀想だが、殲滅させなければならないのである。
キリーとマスールたちに分かれて、せーのでコボルトたちに襲い掛かる。
不意を突かれたコボルトたちが、キリーたちの攻撃で無残にも散っていく。キリーの双剣、マスールの斧は次々とコボルトを討ち取っていく。マオも頑張って両手の爪で攻撃するが、さすがは初の実戦、そううまくもいかなかった。だが、その不慣れで緩い攻撃で油断したコボルトに、マスールの重い一撃が落とされる。性格には問題があるが、うまく連携は取れているようだった。
キリーもキリーで、最初こそあんなに吐いていたくらいに苦手だった魔物討伐も、無表情でこなすくらいに成長していた。的確に急所を狙って双剣を淡々と振り回す様は、コボルトにとってはまるで死神のようだった。
「グ、グルルル……」
キリーの攻撃に、コボルトたちが逃げ腰になっている。かと思えば、反対側からは初心者丸出しのマオと、それをきっちりフォローするマスールのコンビが迫ってくる。コボルトには逃げ場がなかった。
「グオォオォォッ!!」
突如として、その場に雄たけびが響き渡る。
「おっ、ボスのお出ましか」
マスールは冷静に反応している。
どうやらさっきまで居なかった、周りのコボルトより少し大きなコボルトが登場したようなのだ。体格は確かに一回り程度大きくなった程度だが、筋肉量がまるで違う。ただの上位種であるアークコボルトという種族だ。普通の茶色いコボルトとは違って、毛並みが赤いのが特徴である。
「さて、翼の嬢ちゃんは見学しててもらうとするか。なあ、嬢ちゃん!」
「そうですね。マオさんは初めての物理攻撃の実戦な上に、魔法の方もまだ制御が甘いですからね」
キリーはマオの方を見る。
「マオさんは雑魚を魔法も使っていいので、倒しちゃって下さい。遠慮は要りませんから」
というわけで、キリーのこの言葉で、マオは雑魚相手にしながら二人の戦いぶりを見学する事になったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます