第16話

 ☆ ☆ ☆


 風呂から上がりリビングへ向かうと、テーブルを囲んで談笑している二人がいた。入るときには鈴音が一人で学校の課題のようなものをやっていたが、今は夜食をしているのか、テーブルには小皿に乗せられたドライフルーツなどが用意されている。

 裕に誘われたが、振り向いてきた鈴音の『邪魔をするな』という強い視線に遠慮をし、とぼとぼと自室への階段を上る。

 生乾きの前髪が邪魔くさい。ぽたぽたと階段に水滴が零れてしまっているが、研は知らないふりをして自室へ入った。

 髪質のせいで乾かすのに時間がかかるのだが、面倒くさがりな研はいつも適当に乾かして終わらす。そのため生乾きの髪は畝って非常に暑苦しい。だが毛先から水を滴らせていると、いつも裕が来て優しくドライヤーで乾かしてくれるのだ。それが、研にとって至福の時間である。

『もぅっ、面倒くさがるんじゃない』

 と、世話焼きな口調で眉尻を上げながらも、優しい手つきで髪を乾かしてくれる。その髪を撫でる手つきが愛おしくて愛おしくて、その時間が終わってしまうことをいつも残念に思うのだ。

 鈴音の面倒を見ている今そんなことはしてくれなさそうだし、第一鋭い鈴音に関係が暴かれそうなのでベタベタの髪のまま、研は自室の椅子に腰を下ろし読みかけの本を開いた。


 時計を覗き見、もうそろそろ寝ようかとベッドに移動して電気をスタンドの明かりだけ残す。

手元だけを照らしその中で本を読んでいると、いつもこのくらいの時間になると裕が来て隣に飛び込んでくるのに・・・・・・と肌寒さに足を擦り合わせた。

字を読むのに目が疲れてきたためスタンドを消して仰向けに寝っ転がると、とすぐそこの裕の部屋から壁伝いに二人のころころとした話し声が聞こえてくる。ひっきりなしに喋る少し高い方が鈴音で、時々相槌のようにぼそりと聞こえてくる落ち着いた声が裕だろう。何の話をしているのだろうか。と、そう興味があるわけではないのに聞き耳を立ててしまうが、実際内容は全く聞き取れない。

 暗闇に目が慣れてきた中、真っ直ぐに手を伸ばし自分の手の甲を見つめる。

 鈴音はいつまでいるんだろう・・・・・・。

 一つ長い溜息を吐き、研は瞼を閉じた。


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