第12話
☾ ☾ ☾
「鈴―、お茶、入ったよー・・・って、寝てる・・・・・・」
あれから裕は、二人に混ざってゲームに勤しんだ。裕は機械的なものの操作が壊滅的であり、そのためゲームが苦手な研にもボロ負けする。
絶対さっきの問題集の方が簡単だ・・・そう思っているのは裕だけなのだが。
ゲームが一通り終わるとテーブルに異動し、飲み物と菓子を携えて会話に没頭した。裕が高校に入学してから、実家には夏期休暇や年末年始などの長期休みしか帰っておらず、当然鈴音ともしばらく会えていなかった。そのため、鈴音は今までの学校でのことなどを裕に聞いて欲しくて溜め込んでいたのだった。
そして度々話題を振られる研は、『研治』として適当に返答をしており、いつバレるか裕は気が気ではなく冷や汗が止まらなかった。
たくさん話したから疲れたのか、鈴音の話すスピードが遅くなっていき、徐々に瞼が降りていくのを必死に開いてはまたうとうと・・・というのを繰り返す。
そろそろ冷めてきたお茶を入れ直そうと、裕が湯を沸かして紅茶を入れてリビングに戻ると、鈴音はテーブルに突っ伏して寝ていた。実家からここまでかなりの距離があり、おそらく今朝早くに家を出て来たのだろう。疲れが溜まっていたに違いない。
さて、寝かせておくべきか起こすべきか・・・・・・と考えるが、その場にいない研がどこに行ったのか目線を動かして探していると、足音が階段から聞こえてきた。
「ふ~・・・やっぱ兄さん以外の前であの姿でいるのは、なんか居心地悪いわ」
『やっと着替えられたー』と言って降りてきたのは普段のダサい研。その姿を見てほっとしたのは、これで他の人が研に好意を抱かなくなると確信したとき以来だ。
目を覚ました鈴音は、寝ている間に研治が帰ってしまったことに酷くがっかりするだろう。そう思いながら、夕日の差し込む窓にカーテンを引いた。
「えーー!!?帰っちゃったのぉ」
「うん。鈴が起きてからにしようと思ってたらしいんだけど、なかなか起きないから」
「起こしてくれればよかったのに-・・・って、研帰ってたんだ」
「んだよその嬉しくなさそうな顔」
「だって嬉しくないもーーん。あーあ、研の代わりに研治さんがいればいいのに」
「んなこと言ったら、あいつが困るだろ」
研は元の人と接する時用の姿に戻ったからか、先ほどよりもちゃんと言いたいことを話せている。鈴音のことは苦手なのらしいが、裕には使わない乱暴な言葉も使っているため、そのように関われる鈴音が昔から羨ましい。
小さい頃は声も小さくおどおどしていて、今でも学校では目立たないようにそうしているのを見かけるが、『嫌い!』を前面に表してくる鈴音の前だとそれに反抗するように研も荒々しく喋るので、それが新鮮に感じられるのだ。学校でもこんな風に臆せず話せばよいのに。そうすればナメられずに済むのに、と思うが、そうしたらきっと強気なメガネ男子を好む女子などの好みの範囲に入ってしまうので、やはり学校ではそのままが良いと判断する。
「あっ、僕さっき研治さんとメルアド交換したもんねー」
「あっそ、良かったな」
「研とはしてやんなーい」
「あっそ、良かったな」
「てきとーに返すなー!」
本当に、端から見れば仲が良い。鈴音は本気で研のことが嫌いなわけではないのだろう。おそらく、裕と取られて悔しいという一種の反抗で。
とても子どもっぽい鈴音を研が適当に相手をし、テレビの画面に視線を注いでいた。裕には絶対にしない素っ気ない態度。それに優越感を抱きつつも、心のどこかでは羨ましく思う。そんな面倒くさい心境になり、裕は頭を振って夕飯作りに集中した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます