第10話
んもう!急いでるのに!と憤りを覚えながら、思いきり打ってしまった尻に痛みを感じる。咄嗟についた手の平もコンクリートで擦ってしまい、小さな擦り傷がついていた。文句を言ってやる!と思って上をキッと睨み付けると、鈴音に向かって手を差し伸べていたのは艶やかな黒髪をゴムで縛り、心配そうな目で鈴音を見つめている極上のイケメン・・・・・・。
思わず放心してしまったが、その大きな手を取って立ち上がった。ゴツゴツしていて、男らしい・・・格好良い手。
すぐにどきどきと心臓が主張をしてくる。顔に一気に集まってくる熱。雄々しい眉を下げ見つめてくる整いすぎた顔を直視できず、鈴音は自分とぶつかった衝撃で落としてしまった相手の荷物を拾おうと駆け寄った。
袋から飛び出していたのは、今自分が買おうとしていたつゆのボトル。
何コレ、運命じゃん・・・・・・!!
と鼓動がさらに激しくなる。
イケメンを前にすると舞い上がってしまい、いつもよりも饒舌になってしまうことは鈴音にとっての短所だった。激しい鼓動に唇は絶え間なく開き、強引にもイケメンの腕を取って近くの店へと引っ張る。慌てて困っている顔が、とても格好良い。太くキリッとしている眉は下げられ、くっきりしていてスッとはっきりした線の目も目尻が垂れ、イケメンの困り顔に鈴音の胸がきゅんと高鳴った。
イケメンが腕を緩く振りほどき、つゆの入った袋を持ち上げ『天野家に行くところ』という言葉を聞いたとき、鈴音は、彼との出会いは本当に運命だと確信した。
隣で上品にそうめんを啜る横顔が芸術品のように美しい。鼻筋が通っていて綺麗だし、麺を啜る唇も色っぽくて見とれてしまう。その唇から発される声も、その顔に似合い低く痺れるような周波数を持っている。
鈴音は、『研治』と名乗った研の友達である彼に今日、恋をしたのだ。
鈴音は、自分が“面食い”であるという自覚がある。生まれた時から比較的側にいた裕はもちろんのこと、鏡に映る自分の顔も好きだ。両親二人とも美形で、鈴音は美しい人々に囲まれて生きてきた。
中学三年生という年になった今でも、有り難いことに声はそれほど低くならず身長もあまり伸びず、美肌も変わらずで大好きな可愛い自分のままだ。本当に、上手く成長したものだと思う。
そんな鈴音は、学校の中で女子よりも女子らしく、女子からの恋愛方面での人気はないものの男子からの人気はすごかった。鈴音自身、物心ついた頃から自分は格好いい男の人が好きなのだと言うことを自覚しており、それは良いのだが・・・・・・如何せん今まで生きていて裕以上に顔の整った人間は見たことがなかったのでいつも告白はお断りしていた。
女子とは友達で、たまに好きな男子が鈴音に告白したとかで悪口を言われることもあるが、全く気にならなかった。鈴音の可愛さに負けた挙げ句に相手を悪く言うなんて、中身までダメじゃん。と、真面目にそう思ったのだ。
そして今日、裕を超える・・・・・・いや、裕は美人だから系統が違うが、裕よりも自分好みのイケメンと出会ったのだ。
正直あんなダサい研と知り合いでしかも友達ということに驚いたが、研も性格は悪くない。鈴音がキツい視線を送っているのに困っていたら助けてくれるし・・・・・・だからこそ、イケメンじゃなくてムカつくのだが。まぁ、こんなイケメンと友達という点だけは褒めてもいいとは思った。
研治の住んでいる場所を聞くと遠くだということしかわからなかったが、夏休みは始まったばかり。きっとこれからも会える機会はあるはずだ。
隣で『ご馳走様』と大きな手を合わせる研治に、鈴音はこれから彼に仕掛けるアプローチに鼓動を弾ませるのだった。
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