第2話

 ☾ ☾ ☾



「兄さん、朝は簡単なものでいいっていったじゃないか」

「育ち盛りの研に適当なものは食べさせられないよ。それだけは勘弁してくれ、なっ?」

「うっ・・・兄さんがそう言うなら・・・・・・」

 裕が上目遣いにそう頼めば、言葉を詰まらせた研が赤い顔を俯かせた。

 激しい運動(注:キス)を終え、上でしばっていた前髪が乱れたため裕は大人しく座る研の前髪をゴムで縛る。

 研の髪には独特の癖があり、自分で縛るのは難しいといつもは伸ばしっぱなしでいるのだ。だが家では勉強に邪魔だろうと、裕が研の髪を上手く縛ってやっている。

 また研は酷い近眼であるが、本人曰くメガネをかけると頭痛がするというので家では必要な時以外は外している。ので本人は自分の顔を鏡で見ても全く美醜がわからないのだが、裕は、裕だけは研の素顔を知っていた。

 実は研の顔は、学校一の美男子と言われている裕と同じくらい、いや別の系統でいうと裕以上と言えるほどに整っているのであった。

 裕は綺麗で人形の様な美形。それに対し研は野性的な、男らしい美形である。当の本人は自分で確認しようもなく、昔のトラウマで自分は他の人間に比べ醜いのだと自ら目立たないように努めているのだが。

 だがそれは裕にとっては都合が良かった。

 裕と研は小さい頃に両親が再婚したことによってできた兄弟同士である。初めて会ったのは、裕が小学校二年生だったので、研はまだ幼稚園児だった。

 小さくてもわかるその整った顔。くっきりとしたラインの眉が男らしく、今思えば会った瞬間に恋に落ちたのだと思う。しかし顔に似合わず研は人見知りしやすく気弱な性格で、とても友達を作りにくいタイプの子どもだった。

 昔から人付き合いを上手くできる裕に比べ不器用で泣き虫な研は、いつも裕に慰められ、段々と心を許していった気がする。それが嬉しくて、研を独り占めできる喜びに自分が一生研を独り占めしたいという欲望をも抱いたのだった。

 研が小学校に上がってすぐのこと、好きな女の子にこっぴどく嫌な態度を取られたことがトラウマになり、そこから研はさらに内気になってしまった。人が嫌う自分の容姿を隠す名目と共に人の視線を遮るために前髪を伸ばし、姿勢は猫背に、格好にも気を遣わなくなっていった。

前髪のせいか視力も悪くなり、研は分厚いレンズのビン底眼鏡をするようになって美貌は完全に隠れ、ますます裕にとって都合の良い状況になった。

そこから裕は時間をかけ、研には自分だけだと思い込ませ、ゆっくりと自分に溺れさせていったのだった。その結果、二人は晴れて兄弟と並び恋人という関係に。

裕が実家から離れた高校に行くことになり一人暮らしを始めたが、一年を空け研も裕と同じ高校に進学した。なので今は二人暮らしをしている。

めでたく同じ高校に入学した研と裕は、蜜月の日々を送っていた。その生活はとても穏やかで、そんな二人に嵐など訪れるとは思いも寄らなかった。

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