不思議な別れと再開の約束

オイスター

第1話

 「犠牲の上に立つ平和」

それを享受できるのは、ありがたいことなのかもしれない。でも大切なものを失って残された人は何を思って生きていけばいいのかな?

 だから、僕は君を忘れたりしない。



 10年前の僕は中学生だった。学年は忘れた。年齢から計算すればわかるかもしれないが面倒だ。

 僕はあの日の放課後、同級生と会話をしていた記憶がある。さみしい夕暮れの校舎の中で。

「天国ってあるのかな?」

「急にどうしたの?湯川君」

「いや、死んだらどうなるのかって疑問に思っていてね」

「あら。まだ、14歳なのに死ぬのが怖いの?」

「いや。そういうわけじゃ……うーん。やっぱそうかも」

「私は後悔のない人生を送りたいと思っているわ。だから、今を有意義に生きるの」

そう言うと、制服を着た女学生はカバンを持ち上げた。

「あれ。矢野さん。もう帰っちゃうの?」

「人生は一瞬たりとも無駄にはできません。だから、私はもう帰るのです。悪いけど、湯川君の愚痴聞いてる暇はないのよ」

「そっか。気を付けてね」

そう言い終わる前に、矢野さんは帰っていった。その顔には疲れが少し見えた。



 僕は、矢野さんが帰ってから数十分後に帰り支度を終え、教室を出て行った。人気のない階段を下りていると誰かが話している声がする。

「そんなわけないだろう」

「いえ。本当です。私は夢で見たんです」

矢野さんの声だ。

「確かに、最近は地震が多いが、こんな内陸部まで津波が来るなんて信じられない。しかも今日来るなんて」

「でも、私の予感は当たるはずなんです。誰も信じてくれないけど」

「矢野さん。君は少し疲れている。家に帰って休みなさい」

「だけど……」

「とにかく今日は、もう話は聞かないからね。気をつけて帰ってね」

矢野さんが、担任の先生に追い返されていた。


 「どうしたの?矢野さん」

「あ?湯川君。まだいたの?」

「うん。話聞いちゃったけど。なんか訳ありみたいね」

「そうなのよ。私、最近、悪夢を見るの。この町が海の水に流される恐ろしい夢を」

「へー」

「湯川君も信じてくれないのね」

矢野さんは、呆れた顔で言ってきた。

「信じてあげてもいいよ。どうせ僕は、暇だからさ」

「本当?じゃあ私と一緒にやってほしいことがあるの。きっとこれで、みんなを救えるはず……」

その時の僕は、彼女が本気で言っているのか全く分からなかった。しかし、彼女の表情は真剣そのものだった。

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