⑤
「ここまで順調に出来ていますし、もう魔法は必要ありませんね。
あとはオーブンで焼いてしまってから飾り付けてお終いですもの。
もちろん焼きすぎないよう、時間には気をつけてくださいね。」
魔女っ子さんはそう言うと、今度は反対側の瞳をぱちんとウィンクしてみせました。
そうすればリャナンシーさんの周りに漂っていた煌めきは一瞬で消え去り、体が自分の意思で動くようになったのでした。
魔女っ子さんはオーブンの中に2つのケーキを入れて焼き始め、焼き上がるまでの間に飾りつけに使うフルーツを洗ったりと準備をしようと声をかけました。
包丁を使わなくて済むように、フルーツはベリー類を使う事にしたので、魔女っ子さんも安心して任せられたのでした。
しばらくすると香ばしい匂いがオーブンからしてきたので、2人はひょっこりと並んで中を覗き込みました。
ケーキに綺麗な焼き目がついている事を確認したので、リャナンシーさんがミトンを嵌めてオーブンの中からケーキを取り出しました。
ケーキクーラーの上に置いたスポンジケーキが冷めるまで待ってから、そっと型から外していきました。
現れたスポンジケーキはうまくメレンゲを潰さずに作れたようで、しっかりと高さのある仕上がりになっていました。
リャナンシーさんは自分が初めてケーキを作れたという事実に言葉もなく感動していました。
「あとは自分の好きなように飾りつけていくだけですよ、とりあえず一般的な飾り方をしていきましょうね」
「はい、お願いします!」
先ほどのメレンゲ作りで腕はとうに疲れ切っていましたが、興奮冷めやらぬ状態になっているリャナンシーさんは最初よりも随分元気よく答えたのでした。
それから生クリームを泡立てる練習をしたり、飾りのフルーツを切ってみたりしていれば、あっという間に生地が焼き上がりました。
ケーキクーラーで粗熱をとってから、準備しておいた生クリームやフルーツで飾り付けていきます。
「これで出来上がりですね、お疲れ様でした」
「はい、ありがとうございました。なんとなく要領がつかめたような気がします!」
2人がそれぞれのケーキを好きなように飾り終えたところで、魔女っ子さんはリャナンシーさんへ特訓の終了を伝えると、必死に頑張った彼女の努力をいたわりました。
それに対してリャナンシーさんは魔女っ子さんのおかげで自分が失敗してきた理由が少しわかった気がしたので、お礼の言葉を返したのでした。
2人が言葉を交わしている間にも時間は過ぎていき、気がづけば外はもう夕暮れ時となっていました。
リャナンシーさんは慌てて身支度を済ませると、お家に帰るべく玄関に立って挨拶をしました。
「重ね重ね、本当にありがとうございました。
ご主人様に喜んでもらえるよう、明日は教えてもらったケーキをきちんと作って見せます!」
「手助けになったならよかったです。
何か困ったことがあったら、またいつでも家に来てくださいね」
そうしてリャナンシーさんが去った後、魔女っ子さんはお家の中を見渡すと、調理台の方へと視線をやりました。
「さて、後はこれを片付けるだけね」
そう言った魔女っ子さんは調理台を眺めながら、ふうと思わずため息をついてしまいました。
なにしろそこに並んでいたのは美味しそうなホールケーキ2つだけでなく、例の失敗作たちが幾つも並んでいたからでした。
「黒焦げになったやつは食べれそうなところまで削いで、生焼けの物は再加熱をしていけば大丈夫かしら」
魔女っ子さんはどうやって処理をしようか考えながら、今日はまだお出かけから帰ってきていないカラスさんのことを思いました。
「今日はこのケーキたちだけで、お腹が膨れちゃいそうだわ。
もう少ししたらカラスさんが帰ってくるし、多分食べ切れる…わよね?」
甘いもの好きなカラスさんに期待をかけて、魔女っ子さんは失敗作を美味しく食べるべく、パタパタと調理を始めたのでした。
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