魔女っ子さんは腰掛けた箒を操ると、カラスさんを追って空を飛んで行きました。


 2人が森の木々の上を延々と飛び続けていくと、遠くに開けた場所があるのが見えてきました。


 ぽっかりと木々が立ち消えているそこには、緑豊かな草原が広がっているのでした。


 ちらほらと可愛らしい家が点在していて、住人であろうケットシーたちが気まぐれに過ごしているのが見てとれます。


 今日はお天気が良いので、ほとんどのケットシーが日向ぼっこをしながらぐうぐうと眠っていました。


 近くで様子を見ようとした魔女っ子さんが箒の高度を下げて近付いていっても、1匹として夢の中から起きようとする者はいません。


 ぴくぴくと音に合わせて耳は動くものの、目を開いたり起きあがろうとする素振りもみせないのです。


 あんまり幸せそうな顔で眠っているものですから、魔女っ子さんは吹き出しそうになるのを必死に堪えなくてはいけなくなりました。


 先に行っていたカラスさんがこちらを見てなにか言いながら羽ばたいているのが見えたので、魔女っ子さんは慌てて箒を操ってその場を後にすることにしました。



 「もう、まじょっこさん!いそがなきゃぁ!」



 カラスさんは魔女っ子さんが追いついてきたのに気付くと、するりと箒の柄に掴まりながら文句を言いました。



 「うふふ、ごめんね。でもお城はもうすぐじゃない、ほら」



 魔女っ子さんの言うとおり、2人の視線の先には小さいながらも立派なお城が建っていました。



 大きさでいうと人間が暮らす一軒家ほどのこじんまりとしたそれは、一見すると玩具のようでしたが、近づいてみれば石を組んで造られた頑丈な城だとわかります。


 お城の周りには魔女っ子さんがよじ登れそうなほどの高さの壁が聳えていて、入り口の門には2匹のケットシーが衛兵として立っているのでした。


 先ほどの住人達とは違って、鎧を着込んだ衛兵さんはびしっとした姿勢を崩さず辺りを見張っています。


 けれど魔女っ子さんとカラスさんがゆっくりと門の方へ箒を飛ばして近付いてくと、それに気がついた衛兵さんは途端に相好を崩して早口で話しかけてきたのでした。



 「ああ、やっと魔女っ子さんが来てくれたにゃ。

 王様が心底お困りになられていますのにゃ、どうぞお早く!」


 「あらまあ、どうやらよっぽどの問題が起きているみたいね。


 任せてくださいな、案内をお願いしますよ」



 そこで衛兵さんは門番を片割れに任せ、小走りになりながら城門の内側へと入っていきました。


 魔女っ子さんは一度箒から降りると、カラスさんを箒の柄から自分の肩の上へと移動させました。


 大事な箒をそこらに置いておくわけにはいかないので、片手に握りしめたまま城門をくぐっていきました。



 その時城門にかけられた魔法が発動して、魔女っ子さん達の体がキラキラと光ったかと思うと、するすると吸い込まれるようにして縮んでいったのです。


 どうやらこの魔法を掛けた魔女は優秀な腕をしていたようです。


 着ていた洋服だとかも魔女っ子さんの大きさに合わせて縮んでいってくれたので、先ほどまでと変わりなくぴったりと身体を覆ってくれていました。


 なにしろこの魔法を未熟な腕の者がかけようものなら、体以外の全てはそのままの大きさのまま取り残されてしまうと言うことを知っていたので、魔女っ子さんは内心ほっとしたのでした。


 だってもしそうなればぶかぶかの洋服に埋もれた赤ん坊のような情けない姿になるだけでなく、手に持っていた筈の箒が、巨大になったかと思ったら次の瞬間には自分たちが押し潰されてしまいました、なんて悲劇が起こりかねなかったのですから。


 身体を縮めていく魔法が止まったのは、魔女っ子さんの背丈がケットシーたちと同じほどになったころでした。


 この魔法は腹の底がぐらぐらと揺れているような、なんとも言えない心地がするので苦手な者が多いのですが、カラスさんもそうなようで羽毛を逆立てながら文句を言うのでした。



 「これへんなかんじがして、きらいだよぉ…」



 情けない声で文句を言っているのを、魔女っ子さんが小さな声で嗜めます。



 「文句言わないの、何かにぶつけて壊してしまわないだけ良いでしょう」



 衛兵さんは早く先へ向かいたそうにしながらも、苦笑しながら話しかけてきました。



 「この城に訪れる客人が体の大きさに関係なく、快適に過ごせるようにとの配慮から設置しているのですが、こればっかりは慣れて頂くしかないので…」


 「ええ、むしろこちらがお礼を言うべきことですもの。

 貴重な壺なんかを壊してしまったら、どう弁償したらよいものやら…」



 魔女っ子さんはじとりとカラスさんを横目に見ながら言いました。


 そそっかしくてよく物を落としてしまうカラスさんはぎくりとして、それ以上何も言わなくなりました。

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