雲外蒼天
沢村基
第1話
短い練習が終わった。雪城高校ラグビー部の四十五人の部員は、ベンチ前に集合した。
いつもなら部員全員で円形に並び、今日の練習の振り返りの言葉と、主将の締めの挨拶をきいて終わりになるのだが、今日は学年ごとに列を作って並ぶ。
大切なセレモニーが待っていた。
コンタクトバッグを片付けていた井上龍太も、三年生の列の一番左端に着いた。
ベンチには、公式戦用ジャージが二十四着、整然と並べられている。背番号一から十五までが明日の試合の先発メンバーで、十六から二十三までがリザーブ(ベンチ入り)となる。これから監督によるジャージの授与式が始まるのだ。
雪城高校のジャージは濃い青色で、胸に白とライトブルーの横縞が二本入っていた。快晴の空をイメージしてデザインされたものだ、と龍太は入部してから何度もきいていた。
三年前、龍太が自分の進学する高校名を親戚の叔父さんに告げたとき、叔父さんははちょっと残念そうな顔をした。
「雪城かあ。昔は強かったんだけどな……」
昔はこのジャージに憧れて進学してきた新入生もたくさんいたはずだ。
しかし今は――。
ここ三年間連続で、雪城は地区大会の準決勝で敗退していた。都内ベストエイトで足踏み状態、全国大会への道は閉ざされたままだ。しかも今年は、トーナメント決めのクジ運が悪く、強豪笹原高校のいる山に入ってしまった。
明日の三回戦でとうとうそのシード校の笹原と当たるのだ。全国大会どころかベストエイトの座さえも守れるかどうか、という瀬戸際にいた。
逆に、ここで全国大会常連の強豪を下せば、あとのトーナメントはぐっと戦いやすくなる。全国大会も夢ではなくなるのだ。
龍太は直立不動の姿勢で、明日の試合について、険しい顔でみなを鼓舞する山端監督の顔をみつめていた。身長は高く、部員たちと同じように陽に灼けた顔をしていた。
山端は昨年の四月、雪城高校にやってきた。前任の監督は七十歳を超えて、寄る年波には勝てず退任した。毎日、ベンチからおだやかに部員を見守っている好々爺だった。
その「おじいちゃん監督」から、二十代前半の若い体育教師へと、監督の責務は引き継がれた。
新しい監督は身長が高く、精悍な顔つきをしていた。首の付け根から肩へと鍛えた筋肉が盛り上がっていて、後ろ姿は熊のようだった。グラウンドをのしのしと歩き回り、練習中、部員が少しでも手を抜こうものなら、すかさず厳しい声で叱咤した。
周囲の大人たちも、この新監督に期待するところが大きいようで、学校の広報誌には「フレッシュな力で、今年こそ古豪の復活を」と、ラグビー部のことが大きく取りあげられていた。
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