第12話
私は後ずさる。夕焼けの精霊は何かを探すように首をゴキゴキと回していた。彼女が動く度に関節の鳴る音がする。心霊現象の特番で見たラップ音と同じだ。
これもネタになりそう。まず、精霊まで召喚できたことを自慢できる!
春雨の本によると、夕焼けの精霊は願いを叶えてくれるようだ。雨の神は私の願いを聞くだけで叶えるとは言っていなかったけれど、夕焼けの精霊は叶えてくれる。
もしかして、春雨が作品を更新する度に感想もらえてんのは、夕焼けの精霊に願ったから? なーんだ、ズルしてんじゃん。本当に読みたいと思って読んだ人じゃないんだったら、意味ないっつーの!
夕焼けの精霊は私の描きかけのアナログイラストを見ていた。
「これ、何のキャラでございますか?」
「これはね、うちの子! 一次創作のキャラクター。うちの作品の主人公!」
「ほむほむ。胸を患っていらっしゃるのでございますね。お可哀想に……。目の焦点も明後日の方向でございます。きっと視力にもなんらかのハンデがあるのですね」
バカにしてんのか? それとも、精霊だから見え方が違うだけか? 価値観が違うってのも芸術的なものだと争いになりがちだな。私の最高傑作を理解できないなんて、可哀想。
「それよりも、あんたって願いを叶えてくれるって聞いたんだけど」
「はい。私は願いを叶えてさしあげるのです。そして、
壊れたおもちゃのような笑い方だ。全てがぎこちない。わざとらしく動いているようにも見える。
不気味な笑い声をあげて、こやけはにんまり笑っていた。赤い目が燃えているように見える。
「それって、私が相手の本名を知らなくても大丈夫?」
「もちろんでございます。アレを消せ。コレを消せ。そういうお願いでしたら、なんなりと、何度でも、願えば良いのです。ただし、願いを叶えるには、代価を支払っていただくのです。等価交換でございますよ!」
ビシッ! と音がしそうな勢いで指を差され、驚いた。
代価は何だろうか。私は、私をバカにした春雨と猫乃の2人を許せない。死んでほしい。死ね! 私をコケにしたことを後悔して死ね!
「代価は何?」
「代価として、時間をいただきます。金銭や物品は必要ありません。人間の作り出した価値あるものは、私にとっては無価値でございます。抹茶プリンなら受け取ってやりますが、代価は時間でございます。時間さえ頂ければ、私は何度でも何人でも葬って差し上げましょう。もちろん、殺しのお願い以外も大歓迎でございます!」
時間なら、実質タダじゃん! ノーリスクハイリターンじゃん! 最高! 今だけ春雨に感謝してやるわ。今から死んでもらうけど!
「それなら、2人殺してほしい。私のことをバカにして、コケにして、裏で悪口を言い続けてるし、取り巻きと私を監視してる粘着質な奴らなんだ!」
「なるほどー。ずいぶん憎んでいらっしゃいますね。私、そういう激烈な感情が大好きでございます! 昂ってしまいます! それならば、お仕置きが必要でございますね」
ずっと一定のハイテンションで話し続けてくるのもなかなか背中にゾワゾワくるものがある。景壱とは違う意味で怖い。彼は静かに得体の知れないものが内側から滲み出てきそうなのに対し、彼女は正体がわかっているのに霧を掴むように理解が追いつかない。独特の言い回しが私の思考の邪魔をしているのかもしれない。
「で、どんな奴でございますか? 情報が無いとさすがに私も動けないですよ」
「こいつら」
SNSのアカウントを見せる。「猫乃さんはあなたをブロックしました」「春雨さんはあなたをブロックしました」の画面を見るだけで苛立つ。
こやけは顎に人差し指をあて、「ほむほむ」と呟いていた。
「なるほど。私、この方にお会いしたことありますね」
「春雨でしょ? ねえ、こいつはあんたに何を願ったの?」
「私はこう見えても忙しいのです。多くの人間に救いを求められていて、願いを叶えるにも順番があるのでございます。春雨さんの願いは特殊でしたので、正直言って忘れかけていたところですが、あなたのお陰で叶えられそうでございます! あはあは!」
「私のお陰で叶えられる?」
ということは、私があいつの願いに関係するのか。
私のほうが何もかも優れているから、技を盗みたいだとか思ってたんだろうな。夕焼けの精霊が忘れかけるくらいにくだらないことを願うなんて、あいつらしい! どうせなら、彼女が喜ぶような願いをしたら良いんだ。人を殺すことを先にオススメしてくるような精霊なんだからさ。
「春雨さんは、私にこう願ったのでございます。『自分を殺そうと願ってくるやつを殺して』と。つーまーり、私は春雨さんの願いを叶えるために、あなたを殺す必要があるのです。ウフフ。人を呪わば穴二つ。他人を呪い殺そうとするならば、自分も報いを受けることになるのでございます。自分の墓穴の準備もいたしましょうね! あはあは!」
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