第42話ー怪物同士の闘争ー


『その歪みが我々には必要なのだ。悲しいことだが』


 黒尽くめの人物の周囲に5つの空間の歪みが出現。

 そのそれぞれから刀剣の柄のようなものがせり出してきた。


『義姉弟だった馴染みだ。そこの少女を今すぐこちらへ寄越せば……そうだな、その右腕のみで勘弁してやろう』


「ピンポイントで嫌な部位要求してきやがって……。ネロも俺の右腕もくれてやんねェよ」


『なら守ってみせろ。その矮小な刃でな』


 黒尽くめは次元の裂け目から現れた5本の内1本を握り、残りの刀剣は周囲を浮遊しながらもこちらに切っ先を向けてきた。

 次の瞬間、黒尽くめの姿が視界から消えたかと思うとヒナキの眼前に現れる。

 頭上と全方位から迫る重圧。


 自分の身体が細切れになるイメージが脳裏に浮かぶ。


 だが身体は自然と動く。

 より強力な斬撃を放ってくる黒尽くめ自信が振るうブレードを全力でいなし、カウンターを狙う。

 骨肉切らせて肉を断てれば……。


「生意気ぃ」


 背後からぼそりとそんなつぶやきが聞こえた気がした。

 

 斬撃、その一閃をナイフの側面に合わせ這わせるようにして逸らす。

 途中まではうまくヒナキの技術により斬撃はうまく逸れていたが、強烈な力押しに対し袈裟懸けに切られた傷が痛み手元が狂った。

 斬撃を逸らし切れず腕が斬れた。


 カウンターを狙える体勢ではない。

 このまま残りのブレードに八つ裂きにされるかと覚悟を決めたが……。


流石さすが、これくらいの芸当はワケないということか』


「物量でくるならこっちもそうするだけよぉ」


 ヒナキの周囲を複数の赤く光を放つブレードが囲み、黒尽くめが操っているであろう4本のブレードを止めていた。

 だが黒尽くめの攻撃はそれだけでは終わらなかった。

 

 ネロとヒナキの周囲を囲むように数え切れないほどの空間の歪みが現れ、その全てからブレードが出現し二人に向かって射出されたが、間髪入れずそのすべてをネロが生成したブレードで弾き返す。

 ヒナキはその鋤にMod-45を抜き、黒尽くめに対し引き金を引く。


 銃弾を受け後退したのを見るや、ヒナキはネロを担いで走り出す。


「わっ……しどぉッ!?」


「逃げるぞ!」


「これからだったのにぃ」


「バカお前気づいてないのか!? 右腕斬られてるぞ!」


「……?」


 あの黒尽くめから逃げるため艦内を疾走するヒナキに担がれているネロは自分の右腕がうまく上がらないことに今更気がついた。

 自分の血液が腕、指を伝って滴っているにも関わらず自分が斬られていることに全く気が付かなかった。

 いつ、どのタイミングで?

 向かってきていた攻撃はすべて弾いていたはずなのに。


 「せ、戦神せんじん様、彼ら逃げちゃいましたけどお、追わないんですか?」


『あの娘の力……少々侮っていたようだ』


 黒尽くめのコート、その袖口からぼとりと何かが落下した。

 それは黒い鉤爪のようなものを持つ怪物の腕だった。


「そ、それは……!? い、今すぐ治療を……」 


『問題ない、すぐに繋がる。生け捕りにするため加減していたとはいえ、この私の腕を切り落とすとは……』


 黒尽くめは握っていたブレードを次元の歪みへ納め、先程までヒナキと少女がいた場所まで歩を進めた。

 床に滴った少女のものと思わしき血液に手を伸ばし……。


『ドクター、かの娘の血液をすぐに採取しておけ。我が義弟のものもあるがそれは捨て置け。間違えぬようにな』


「我らが姫君の身柄はどうするのですか?」


『娘自身の確保は相応のリスクがあると判断した。今は血液に含まれる遺伝子情報で十分すぎるだろう』


 ドクターと呼ばれた白衣の男がネロの血液に走り寄り、膝をついて血液回収用の特殊なポンプを備えた容器を取り出した。

 針を血液に浸け、ポンプを起動すると自動で血液が吸い上げられ小型タンクへ流入する。


「おお、なんと美しい血液でしょうか……。光に当てると中のドミネーター因子が反応し赤い発光現象が生じ……まるで宝石のようです」


『ドクター、回収を終えたらすぐにこの海域から離脱しなさい。地上でクアッドが足止めしているとはいえ、方舟側も水中戦力を投入してきている。攻撃を受ければこの艦はすぐに沈むぞ』


「そ、それは困ります!」


『なら早くしろ。私がカバーできる範囲にも限界があるぞ』


……。


 ヒナキはしきりに後方を確認し、例の黒尽くめが追ってきていないかを確認していた。

 しかししばらく逃げていても一向に追ってくる気配がないため、ここから脱出する手立てを探すことに集中することに。


「しどぉもう降ろしてぇ」


「ああ……悪い」


 ヒナキはネロを降ろしてやると、ネロはすぐに自分の衣服を切って右腕の傷を縛って止血処置を行った。


「海中に出るならしどぉも止血しないとまずいわよぉ」


「いや、この規模の潜水艦なら多分脱出用の小型艇があると思うんだ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る