第37話ー機甲兵器出撃ー


 「約束ね」と結月少尉は言葉を投げかけ、特殊二脚機甲兵器ウィンバックアブソリューターブルーグラディウスの戦闘システムを起動させた。

 機体各部に備えられた推進機構スラスターから青く光る粒子が噴出し、背部に備えられた自律駆動ユニットが六基宙に展開されて機体本体の周囲を一定の間隔で飛び回り始める。


「結月から管制室へ。ブルーグラディウス起動完了、只今より僚機と共に方舟外海に現れた人型巨大ドミネーターの殲滅に向かう」


《こちらセンチュリオンテクノロジー管制官、企業連の許可は降りています。オペレーティングはいつもどおり八雲が行いますのでこの後通信を繋ぎます》


《ちょお、ターシャ! 登録申請見たけど僚機ってダイナモのこと言ってる感じ? 》


「八雲うるさい」


《いやいや、作業用二脚機甲なんて連れてどうすんのって話してんだって! 今すぐそのダイナモ止めないとだめっしょ!》


「相手は大侵攻時に現れた黒鎧と酷似した個体よ。都市内に入り込んだ個体に気が取られている現状、戦力は多いほうがいいと思うけど」


《あのねぇ、戦力になればの話してない? 先に接敵したフル装備の二脚機甲部隊が全滅しかかってるってわかってる? 誰が乗っているか知らんけど遊びじゃねーんだぞって! 無駄死にどころか足引っ張りになるじゃん!》


「……ってウチのオペレーターが言ってるけど。どうする、止めておく?」


 ブルーグラディウスの反重力炉が本格稼働し、機体周囲に反重力フィールドが形成され足が道路から離れてゆく。

 そんな中、結月操る機体のオペレーターである八雲は僚機登録された建築作業用二脚機甲とそれに乗る人物に対して出撃しないよう声を大にしていた。


 それを聞いた結月は同じく通信がつながっていたヒナキに話を振ったが……。。


《ご心配どうもありがとうって言っといてくれ。もう出るぞ、コレよりいい機体乗った先輩方が足止めすらできない奴が防護壁を超えてきたぜ》


「了解、じゃあ行こう。結月及びブルーグラディウス、出撃するわ」


《いいなそういうの、俺も出撃用の決め台詞決めとくか》

《しどぉ、ぐだぐだ喋ってないではやくぅ!》

《あいあい。建築作業用無理矢理機甲兵器、出るぞ。ネロ、ちゃんと掴まってろよ》

《はぁい》


 その通信のやり取りから随分仲の良さそうな二人だと結月は微笑みながら操縦桿を倒す。

 今から死地に向かうというのに随分と緊張感がないものだ。

 こちらもその方が緊張がほぐれやりやすいが……。


 ブルーグラディウスは空を飛び、黒鎧の大型ドミネーターに対しまっすぐ距離を詰めてゆく。

 その後ろ、セントラルストリートを走りブルーグラディウスの後を追っていった。


 そのやり取りを聞いていたオペレーター八雲は頭を抱えていたが……。


《もう知らないかんね! ウチは忠告したから!》


「それでいいわ。それよりも現状解析が済んでいる第二黒鎧の情報共有お願い」


 防護壁を抜け都市へ侵入してきたのは大侵攻の際に現れた個体より体躯が細く長かった。

 その細く長い体型と同じく長い腕を一振りすると粘着質の球状グレアノイドかいを散弾銃のようにばらまき、周囲の建造物や二脚機甲兵器に接着させる。


 接着してから数秒後、その黒い球状のものは赤い爆炎を上げて爆ぜた。

 その爆発は建造物を破壊し、二脚機甲の装甲を容易く割るほどの威力を持っている。


『ひゅーッ、なんだよ方舟ぇ。護り堅いだけで大したことねぇじゃん! 俺一人でやっちまうかなァって!』


 人型ドミネーター、クアッド。

 方舟都市仮称、第二黒鎧。


 大侵攻の際に大きな爪痕を残した人型ドミネーター、黒鎧と酷似した容姿を持つその個体はまばらにやってくる機甲部隊を退け続けていた。

 方舟内の戦力が一極集中しないよう、事前に打たれ強くなるように調整しておいた小型ドミネーターを都市内にばらまいた甲斐があったと内心ほくそ笑みながら。


 さあいつ来ると、ネギを背負って来るカモを待っていた。

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