年越しそば

Jack Torrance

年越しそば

冬の夜は長い。


身を裂くような寒波が日本列島を襲う。


冬至が過ぎクリスマスで一頻り盛り上がった人々は良き形で新年を迎えようと奔走する。


コロナ、戦争、円安、物価高。


貿易赤字は過去最高となり財政負担は国債頼り。


原油高に急速な円安。


日本の電力発電は火力発電から原子力発電に大幅に舵切りを迫られるだろう。


原発反対を唱える政治家、国民は無責任なのかも知れない。


国が配る給付金は選挙の為のばら撒きでしかない。


だが、貰える物は貰っておかないと損をするのでちゃっかり貰っておこう。


主婦は1円でも安く、より良い、品を求めて奔走する。


冬の渡り鳥のように1円でも安いスーパーを探し求めて…


主婦と同様、師もまた走る。


出来の悪い生徒の為に。


加奈子は思う。


バージニアスリムを吸いながら。


学問の神様、菅原 道真に神頼みする暇があったら、その時間を受験勉強に当てた方が合格率は上がるだろうと…


大体、太宰府天満宮に参拝した受験生が全員合格してるのか?つー話だ。


合格率100%!


そんな天文学的数値を叩き出していたら警察、ヤクザ、弁護士なんて、この世に要らねえつーんだよ。


加奈子は五反田のソープランド【熟れ妻】というソープランドで風俗嬢をしている。


風俗嬢と呼ぶには加奈子は歳を取り過ぎている。


それは、店名の【熟れ妻】という一言(いちごん)が物語っている。


先月、57になった。


だから、自分では店の30代、40代の女の子達に自虐を込めて自分の事を風俗おばさんだと言っている。


得意なプレイは巨乳102cmを活かしたぬるぬるマットプレイとパイズリだ。


【熟れ妻】だと唱っているが必ずしも店の女の子、いや、これは語弊である。


店のおばさん達が妻である訳ではなかった。


シングルマザーや独身のおばさんもいた。


加奈子も例外に漏れず。


加奈子は妻といっても正式に籍を入れている訳では無い。


俗にいう内縁の妻である。


加奈子には金看板を背負った反社の内縁の夫がいた。


俗に言う構成員という奴だ。


名は、山口 健。


あの旧統一教会と縁深く銃撃された元首相の御膝元、山口県と幼少期から揶揄され、その道に走った正真正銘の筋金だ。


山口の背中には般若の彫物が刻まれている。


山口は一端を気取っているが、卯建の上がらない半端者だ。


スナックからのみかじめ料、せこい地上げ、借金の取り立て、恐喝、詐欺、時にはうなぎの稚魚の乱獲などで小銭を稼ぎせっせと組に上納金を納めている。


稼いで来た小銭も泡(あぶく)と消え飲む打つ買うの三拍子で家計の足しにはならなかった。


なので、泡(あぶく)と消えた金を補填する為に加奈子がソープランドでせっせと泡(あわ)を立てて稼いで来ているのであった。


山口は加奈子より14も年下で喧嘩になった時には加奈子を殴る事もあった。


あのマーヴィン ゲイが妻や取り巻きの女達を殴っていたように…


山口は飲む。


大酒喰らいだ。


日本酒、ウイスキー、ウォッカにジン、何でもござれだ。


山口は買う。


山口は加奈子のマットプレイとパイズリには満足していた。


加奈子はともさか りえのように愛くるしい顔をしているが男とはステーキばかりでは飽きるものなのだ。


たまには茶漬けを食べたくなる時もあるのだ。


一番たちが悪いのは打つだ。


パチンコ、競艇、競馬、オートレース、競輪、マージャン、バカラ賭博から隠れカジノまで何でもござれだ。


そして、山口の打つは博打とシャブの二段構えだ。


加奈子は生娘ではなかったが山口にシャブ漬けにされていた。


加奈子は山口からDVを受けながらも別れる事が出来なかった。


それは、山口が和製キアヌ リーブスのような端正な顔立ちだったのもあるが、殴った後の山口は普段の倍、いや、それ以上のやさしさで加奈子を包むからであった。


「わりい、加奈子、また殴っちまって。こっち来いよ」


そう言って加奈子をやさしく抱き唇にやさしくキスして愛してやる。


身長185cmの山口にやさしく抱擁され愛撫されると加奈子は殴られても罵倒されても山口と別れるという決断には踏み切れなかった。


大晦日。


この日の山口は何時になくやさしく上機嫌だ。


有馬記念でガッポリ儲かっていたからだ。


1番人気のクリストファー ルメール騎乗イクイノックスと来年2月で騎手を引退し調教師となる福永 祐一騎乗の6番人気ボルドグフーシュの馬連3-9一点に20万打ち込んでいたからだ。


馬連の払い戻しは1,320円。


締めて264万円の払い戻しだ。


山口は昨晩から大晦日恒例の競輪グランプリの予想をして寝ていなかった。


だが、シャブでハイになっていたので睡眠不足なんてものは微塵も感じていなかった。


そう、それは、コカインでハイになって税金を滞納し続けた、あのマーヴィン ゲイのように…


朝の6時からキッチンでなにやら物音がする。


どうやら、有馬で儲かって上機嫌の山口が手製のそばを打っているらしい。


そうだ、忘れていた!。


今日は大晦日だ!


山口は博打とシャブだけじゃなくて、そばも打つんだったと加奈子は思い出した。


山口の実家は信州そばで有名な長野県で【そば処 細く長く】という老舗ソバ屋を営んでいる。


どうやら山口の曽祖父の代から細く長く続いているという地元でも有名店だ。


山口は「親から敷かれたレールの上を生きるなんざ真っ平御免だぜ」と捨て台詞を吐いて上京したと昔、加奈子は聞いた覚えがある。


それ以来、山口は家族とは音信不通だ。


加奈子は、山口と暮らし始めて初めて山口がそばを打ってくれた時に、そのエピソードを聞かされた。


加奈子は、今キッチンでそばを打っている山口の背中をぼんやりと見つめながら宮崎の実家の両親を思う。


加奈子は山口と知り合う前は都内の輸入代理店で事務員として働いていた。


彼氏はおらず毎日が会社とアパートの往復だった。


休日は趣味のパチンコに興じるのが日課となっていた。


そのパチンコ店で横に座ったのが山口だった。


その時、加奈子は『CR天才バカボン』で確変に突入しドル箱を20杯積んでいた。


「ねえちゃん、すっげー出てんな。あんたの横の台、すっげーハマってんけど出ると思うか?」


ドルチェ&ガッバーナの七分丈のTシャツにハイダウェイニコルのダメージデニム。


足下はDr.マーチンのパイソン柄の先の尖ったブーツ。


金髪の長く伸びた髪の毛をオールバックに撫でつけ顎鬚を蓄えていた。


如何にもやんちゃな子が、そのまんま大人になったという出で立ちだった。


キアヌ リーブスのような端正な顔立ちで金髪に染められた毛髪の山口は日本人には見えず加奈子の一目惚れだった。


加奈子は昔から岩城 滉一みたいなやんちゃそうで不良っぽい男に恋する傾向があった。


山口はパッキーを二枚消費する前に確変を引き当て大爆発し、その後ドル箱を17杯積んだ。


二人は隣同士でパチンコを打ち意気投合し居酒屋で飲んだ後にラブホに直行した。


その時に山口の背中の彫物を見て加奈子は、この人はその道の人なんだと知ったが別に怖いとかヤバいとかという感情は不思議と沸いてこなかった。


それから付き合いだして山口が何気ない会話の途中で急に切り出した。


「なあ、加奈子、お前、風呂屋で働いてくんねーか。俺、今のシノギだけじゃやっていけねーからよ」


加奈子は、この時も不思議と違和感なくすんなりと山口の申し入れを承諾した。


加奈子は山口に去られるよりも山口の女として生きる道を選んだのだった。


ソープランドで働き出してから育ててもらった両親には顔向けが出来ず疎遠になった。


加奈子から実家に電話する事は無い。


たまに母の美恵子から掛かって来るが「母さん、あたしは元気にやっているから。心配しないで。じゃ、切るね。母さん、風邪とかひかないようにね。父さんにもそう伝えておいて。仕事が忙しいから。じゃ、またね」と言って通話時間も数分で通話終了のアイコンをタッチする。


風俗おばさんとしてソープランドで働き内縁の夫にシャブ漬けにされジャンキーとなっている今の自分の姿を両親に見せる訳にはいかなかった。


「父さん、母さん、元気にしてるかな」


加奈子は両親の身を案じる。


「健ちゃん、そば打ってんの?」


シャブでハイになっている山口がペタンペタンとそばを打ちながら言う。


「ああ、今日は大晦日だっからよ。加奈子、俺が山口 健だからって、そば粉は山口県産じゃねーからな」


加奈子は欠伸をしながら「アハッ」と笑った。


「おい、加奈子、お前、夜遅くまで客取ってたんだろ。俺も、この後数軒、取り立て行ってから場外行っからよ。お前、もうちょっと寝てろよ。今日は、お前休みだろ。ゆっくり休んでろ。晩飯は俺が作っからよ」


「うん、あんがと」


こういう時の山口に加奈子は絆される。


加奈子は山口のやさしさに甘えて、また冷たくなったベッドに戻った。


夕刻。


加奈子はベッドから身を起こし背伸びした。


時計に目をやると時刻は19時20分を回っていた。


加奈子は、こんなに寝てたんだと茫然とする。


そう言えば、最近お店忙しかったからなぁ~。


ボーナスで懐の温かくなった公務員や銀行員どもが加奈子の巨乳102cmで肉棒を温めてもらいに来店するからだ。


この冬のボーナス時期は加奈子は織田 信長のわらじを懐で温めていた木下 藤吉郎の気分になる。


次から次に汗臭くて男くさい肉棒が街で擦れ違う見知らぬ人々のように加奈子の胸の中で射精しては去って行った。


シャワーでも浴びて目でも覚ますか。


加奈子は来ていたライトブルーのシルクのパジャマを脱いで浴室で熱いシャワーを浴びた。


浴室から出て柔軟剤の香りがするふかふかのバスタオルで体を拭き上げドライヤーで髪を乾かす。


時計の針はもう20時になろうとしていた。


健ちゃん遅いなぁ~。


加奈子はバージニアスリムに火を点け冷蔵庫に行った。


冷蔵庫から一番搾りのロング缶を抜き取りプルタブを引いてぐびりと呷る。


空きっ腹で飲むビールは五臓六腑に染みる。


テレビを点けたが何処の番組もしょうもない年末年始特番だらけだ。


加奈子はテレビを切ってコンポの前に行く。


CDラックから何を聴こうかと迷った挙句ベティ ハリスの『ロスト ソウル クイーン』をチョイスして盤を挿入した。


煙草の吸いさしを灰皿で揉み消しチェーンスモーカーのように次の煙草を銜えて火を点ける。


ビールをチビチビやりながら流れて来るベティの歌唱力に聴き惚れる。


ベティ最高!


これが真の音楽ってもんなんだよ。


加奈子はスーパーやショッピングモールで流れて来るJポップだのKポップだの現行の流行りの音楽にげんなりしていた。


何がグラミーの最優秀アルバム賞がBTSだ?


耳が腐りそうだ。


スマートフォンをイジっていたらレコード大賞特別賞がアドだって書いてる。


ありゃーゴミ溜めの中のクズ音楽だよ。


うっせーうっせーうっせーよって、お前のほうが、うっせーよ!


ゲフィンと契約とか言ってもゲフィンもクズ音楽しかリリースしねークソレコード屋だからよ。


流行りだけ追って中身が詰まってない耳障りなクズ音楽しか生み出さないクズレコード屋と契約したからつーってそれがどうした。


加奈子は時計を見た。


もうすぐ20時30分になる。


その時、玄関のドアが開いた。


山口がにこにこ顔で意気揚々と入って来た。


加奈子はビールを置いて玄関に向かった。


「お帰り、健ちゃん」


右手にはスーパーのビニール袋をぶら下げている。


二人はキッチンに向かいテーブルの上に山口が買って来たビニール袋を置いた。


加奈子が中の品をテーブルに並べる。


マグロとブリ、そしてカンパチの刺身。


惣菜店で買って来た揚げたてのから揚げとエビ天が4尾。


そして、樽酒の住吉の一升瓶。


「うわー、今日は豪勢だねぇー、健ちゃん」


加奈子はにこりと笑って言う。


「おうよ、何てったって今日は大晦日だ。良い感じで一年締め括りてえじゃねえかよ」


「儲かったの、競輪グランプリ?」


「おうよ、あたぼうよ。有馬を一点で仕留めた俺様にとっちゃー競輪なんてちょろいもんだぜ。今日も100浮きだ。年末だけで300オーバープラスだ。まっ、日頃の行いが良い俺様にお天道さんがボーナスを弾んでくれたみてえなもんだな、アハハハハ」


加奈子は日頃から非人道的な生業に手を染めているこの人にお天道様がボーナスをプレゼントする筈無いだろうと思ったがにこっと笑って返すだけに留めておいた。


「すっごいねー、健ちゃん、ヤクザ辞めて博打だけで食っていけるんじゃないの?」


「おう、まあな。まっ、博打はサイドビジネスみてえなもんだ。俺ちょっくらシャワー浴びてくっから。その後、そば作っからよ、加奈子、刺身盛付けといてくれよ」


加奈子は、にこっと敬礼のポーズを取り「ラジャー」と言った。


幸せな時間だ。


風俗おばさんとして、そしてシャブ漬けのジャンキーとして決してお天道様に顔向け出来ない穢れ切った生活を送っていても愛する男と過ごす掛け替えのない時間。


加奈子は刺身のパックから大皿に刺身とつま、シソの葉を奇麗に盛付け醤油皿に刺身醤油とわさびを溶く。


山口が烏の行水のように10分もしないうちに浴室から出て来て調理に掛かる。


山口は鍋で鰹節、昆布、鯖節でダシを取り、かえしを作っている。


ダシの何ともいえない良い香りがキッチンに芳香する。


その合間に俎板の上で軽快な音を立てながらネギを刻む。


ダシが取れたら手ぬぐいを敷いた笊の上でだしがらを濾してスープに醤油を加えて煮立たたせる。


スープが完成すると次は朝に打って寝かせていたそばを茹でる。


手際よくそばを茹で笊で湯切りすると丼茶碗に二人前よそい保温にしていたスープを馴染ませる。


箸で麺をほぐしてやり、上に惣菜店で買って来たエビ天を二尾ずつ載せてネギをパラパラと振って年越しそばの完成だ。


食卓に出来たての年越しそばと刺身の盛り合わせ、それに、唐揚げ。


加奈子は冷蔵庫から一番搾りのロング缶を一本出してビールグラスを食器棚から二つ出した。


先ずは山口のグラスに加奈子がお酌する。


「今年も一年お疲れ様です」


山口がはにかんで言う。


「おう、あんがとう。ほら、加奈子、そのビール、こっち貸せよ。俺が注いでやっから」


加奈子は柔順に言われた通りにロング缶を山口に渡す。


グラスを斜めに傾けると山口がビールを注いでやった。


「今年もあんがとな、加奈子」


加奈子は今まで辛い修羅場を何度も潜り抜けて来たが何とも言えない幸福感に包まれる。


「じゃ、食おうぜ」


「じゃ、健ちゃん、ご相伴に与ります。いっただきまーす」


加奈子は最初に山口が作ってくれた年越そばに箸を付けた。


麺を手繰ると太くて短い。


あれっ?


年越しそばって細く長く生きられますようにって思いを込めて食べる物じゃなかったっけ?


山口が呆れ顔で加奈子に言う。


「あのな、加奈子、俺らヤクザは八、九、三をたしちまって跡には何も残んねえ〇になっちまうヤクザもんだ。そんな俺らが細く長く生きられますよーにってバカ言えつーの。太く短くてもいっからおもしろおかしく生きてなんぼだっつーの。ほら、分かったら黙って食え」


加奈子は黙って食べた。


味は美味しいがそばとかうどんとかってのはのどごしを楽しむ食べ物ではないだろうか?という判然としないもどかしい気持ちになった。


刺し身や唐揚げをつまみながら山口の競輪グランプリの自慢話を聞いているとあっという間にビールが空になった。


「もう一本飲む?」


加奈子が空のロング缶を振りながら山口に尋ねる。


「そばにはポン酒が合うからよ。湯呑と、さっき買って来た住吉持って来てくれよ」


加奈子は言われた通り住吉の一升瓶と湯呑を持って来て一升瓶の封を切ると湯呑に並並と日本酒を注いだ。


「おい、加奈子、お前も湯呑持って来いよ。まだ宵の口じゃねえか。ほら、今日は俺に付き合えよ」


加奈子も飲めない口ではなかったので言われた通りに湯呑を持って来た。


山口が加奈子の湯呑に日本酒を注いでやる。


「明日は休みなんだろ。しこたま飲んどけよ、加奈子」


リピート再生させていたベティのCDが終わった。


加奈子はコンポの前に行き山口に尋ねる。


「健ちゃん、次、何聴く?」


加奈子は山口とのセックスの相性も良かったが音楽も相通ずるものがあった。


「キム トリヴァーのロジャック時代なんてのはどーだ?」


「さっすが、健ちゃん、年末にぴったりって感じね」


加奈子はキム トリヴァーの『キム トリヴァー』をCDラックから抜き取り挿入し再生した。


山口は飲む量も相当だが食う量も相当だ。


加奈子は身長160cm体重46kgと標準、もしくは、それ以下かも知れない。


食べる量も人並みだ。


食卓に並んだ豪勢な食事をみるみる片付けて行く山口。


二人で食事を片していたら一升瓶の3分の2くらいが消失していた。


加奈子は通りで酔っ払ったと思う。


山口は手酌で湯呑に酒を注いでいる。


底なしとは、こういう人間の事を差すんだと加奈子は改めて認識する。


山口が腹を満たし今度は食欲よりも性欲を満たしたくなったようだ。


「加奈子、腹が一杯になっちまったら今度はちんぽの方が美味いもん食わせろってギャーギャー言い出しやがった。今夜はお前のアワビを食ってやる。なあ、やろうぜ。幸一のヤローがいいもんくれたんだ」


幸一とは、戸田 幸一。


健ちゃんの弟分だ。


健ちゃんが嬉しそうにポケットから、それを取り出す。


シャブのパケみたいな袋にミッキーとミニーの形に成型された錠剤が入っている。


ミッキーはライトヴァイオレット。


ミニーはピンク。


加奈子は一発で、それが何かだと分った。


MDMAだ!


あの沢尻 エリカがパクられた奴だと…


だが、シャブ漬けの加奈子に抵抗は無かった。


加奈子は一錠貰い水で飲み下した。


「幸一のヤロー、一錠、二錠じゃ効かなかったって言ってたんだよな。『兄貴だったら馬並みだから五錠くらいは要ると思うっスよ』なんて抜かしてたんだよな。じゃ、ちょっくら五錠くらい飲んどくか」


そう言って、山口はライトヴァイオレットのミッキーの錠剤を五錠、残っていた日本酒で飲み下した。


「テレビもしょんねえのばっかだしよ、こういう時はセックスに限るぜ」


山口がコンポの前に行き電源を落とすとベッドルームに向かった。


山口はベッドルームのレコードラックからデヴィッド ラフィンのテンプテーションズ脱退後のソロ1st『マイ ホール ワールド エンデッド』をターンテーブルに載せて針を落とした。


「加奈子、こっち来いよ」


加奈子は山口の前に行く。


山口が加奈子の唇にキスをして舌を入れる。


煙草と日本酒の味がした。


「こいつも一発決めとこーぜ」


山口がベッドの横のナイトテーブルにコカインの筋を二筋作った。


ピン札の1ドル紙幣を丸めたストローで一気に一筋吸引する山口。


ブルっと山口が武者震いした。


「カァーーー!これだよ、これ。新顔のイラン人から仕入れたヤクにしちゃーこいつは上等なコークだな。うっへぇー、堪んねえぜ。加奈子も一発決めろよ」


普段は炙りでシャブを常用する山口だが、セックスの前は専ら一筋作って吸引するのが日課となっていた。


加奈子も1ドル紙幣のストローを受け取り一気に一筋吸引した。


ナイトテーブルに残ったコカインを指で掬い歯茎に擦り込む山口。


お店で客の衣服を脱衣させてやるように山口の寝間着のジャージを一枚ずつ脱がしていく加奈子。


自分も裸になりベッドインする。


先ずは山口の首筋から乳首に舌を這わせて愛撫する加奈子。


そして、遡上する鮭のように舌先は陰茎に向かう。


肉棒を口に含みディープスロートする。


山口が言う。


「おい、加奈子、こっち向いてしゃぶってくれよ」


加奈子は言われた通り上目遣いで涎を垂らしながら卑猥で淫らな音を立てて山口の肉棒をしゃぶり倒す。


「加奈子、次は俺が愛撫してやる」


加奈子は山口と上下入れ替わり俎板の上の鯉のように身を委ねる。


山口が加奈子にディープキスし耳たぶにやさしく息を吹き掛け口に含む。


ぞくりと背を仰け反らせて感じる加奈子。


首筋から乳首、そして陰唇へと舌を這わせて愛撫する山口。


「アッ、アッ、ア~ン」


喘ぎ声を漏らし感じる加奈子。


「よし、加奈子、四つん這いになって尻を突き出せよ。俺のぶっといちんぽぶち込んでやるからよ」


山口はバックが好きだ。


言われるがままに女豹のポーズを取り丸く柔らかい餅肌の尻を突き出す加奈子。


山口が硬く勃起した肉棒を陰唇に突き刺した。


「アッ、アッ、アッ、いい、健ちゃん」


山口の肉棒は今日食べた年越しそばのように太く短い。


ぶっといちんぽと自分の肉棒を強調しているが短い方は割愛だ。


加奈子は膣奥でも肉棒を感じたかったが、山口の肉棒の先端が加奈子の膣奥に到達する事は無かった。


だが、山口の肉棒は短かったが太さの方は自他ともに認める極太だ。


なのでクリトリスとの摩擦係数は常人の倍、いや、それ以上だった。


加奈子は、これを摩擦茎数と呼んでいた。


肉棒は短いがクリトリスと陰茎の擦れる回数で山口は勝負する。


山口は早漏ではなかったので、それなりに加奈子は楽しめた。


加奈子は恍惚の表情を浮かべながら言う。


「健ちゃん、当たってる。もっと突いて。突いて突いて突きまくって」


加奈子はクリトリスに当たっているというつもりで言ってたのだが、山口は自分の肉棒の先端が加奈子の膣奥に当たっていると勘違いしながら腰をピストンさせていた。


時刻は22時30分になろうとしていた。


加奈子と山口が暮らすマンションから300mくらい離れた温情寺という寺から、年越しには一足早い除夜の鐘が鳴り出した。


最近では除夜の鐘も深夜の騒音として近隣住民からの苦情申し立てもあり温情寺にも今年の初旬だけで200件を超える苦情が届いた。


苦情の電話と葉書はその後も急速に成長を遂げた高度成長期の勢いで伸び続け2月を待たずに2000件を突破した。


温情寺の住職、堺 勝俊は住職と呼ぶには生臭坊主だったので2000件を超える苦情も自業自得であった。


やれ、寺の修繕だ、やれ、納骨堂の改修だ、と言っては檀家に高額寄付を集い、寄付の少ない檀家の葬儀や月命日の読経は通常の3分の1という悪徳ぶりを発揮していた。


戒名も高額なお布施を納めた檀家には位の高い戒名を授け、少ない檀家には、どうでもいい適当な戒名を授けていた。


困窮に喘ぐ貧困家庭のじいさんは【貧乏老士】と名付けるつもりを悪ふざけで【貧乏老死】という戒名を授けられた。


堺は、そのじいさんの遺族から名誉棄損で訴えられ現在、係争中だ。


堺の辞書に〔温情〕という言葉は掲載されてない。


こんな生臭坊主に何が温情もへったくれもあったものか。


堺は生臭なので肉を喰らい魚を喰らうのは愚か、高級ワインや高級シャンパンを銀座の高級クラブで飲み明かし、寄付で集めた貴重なお金をパチンコ、競馬、マージャン、そして、高級クラブのネーチャンとのワンナイトラヴという遊興費に浪費していた。


因みに、堺が乗っている愛車は燃えるような真紅のポルシェ964 カレラ2だ。


堺は除夜の鐘を突きながら内心で舌打ちする。


チッ、近所のクソ住民どもがうっせーからな。


さっさと終わらせてピンドンでも飲みながら昨日、ゲオで借りて来た『こちら、おまんこ、ジャジャ漏れ、渋谷スクランブル交差点24時』でオナニーでもすっか。


昨日、史子に年越しセックスやろうぜ!って言ったら「あんたより実入りの良いパトロンにあたし誘われてるからー」なんて抜かしやがってたからよ。


史子のヤロー、交通事故で死ねばいいのに。


史子とは、銀座の高級クラブ【マドンナ】で堺がいつも指名しているホステスのあばずれだ。


堺は地獄の門を叩くその日まで性根が腐り切っている。


ディランの“ノッキング オン ヘヴンズ ドア”ならず“ノッキング オン ヘルズ ドア”という奴だ。


堺は競輪のジャンのように除夜の鐘を突く。


溢流する煩悩に流されるがままに渋谷スクランブル交差点でナンパされてホイホイとラブホに同行しておまんこをじゃじゃ漏れさせている素人熟女のピンク色の陰唇を想像しながら…


ジャンのように鳴り響く除夜の鐘を聞きながら今日の競輪グランプリの手に汗握る興奮が再燃し除夜の鐘のリズムに合わせて腰のピストンを早める山口。


「アーン、健ちゃん、いいッー」


腰のピストンが速くなり肉棒から伝わる振動は増したが山口の肉棒は短いので震度3くらいとでもいったところだろうか。


堺は煩悩に流されるがままにピンク色の陰唇で頭の中は暴発し肉棒はビンビンにおっ勃っていた。


除夜の鐘が100発を超え山口がイキそうになる。


「加奈子、俺、もうイキそうだ」


「健ちゃん、中で出して。あたしもイッちゃう~」


101。


102。


103。


104。


105。


除夜の鐘に合せて規則的にリズミカルに動く山口の腰遣い。


「アー、もう出る」


「お願い、健ちゃん、中にちょうだいー」


106。


107。


そして、堺が人間の煩悩とは、こうあるべきだッ!と唸らせる渾身の108発目を打ち鳴らした時だった。


ガクン!!!


加奈子は山口の体の重みを背中に感じた。


山口の体の重みで地震で倒壊した家屋のようにへしゃげる加奈子。


「け、け、健ちゃん、イッちゃったの?」


恐る恐る尋ねる加奈子。


山口は逝ったのだった。


加奈子の膣内に大量の精子を中出ししながら真の昇天を遂げたのである。


非人道的な山口が本当に天に召される事は無い。


堺、同様“ノッキングオン ヘルズ ドア”なのだ。


「け、け、健ちゃん、だ、大丈夫?」


深酒とコカイン、おまけのMDMAでオーヴァードーズした山口が加奈子の問に返す事は無かった。


「け、け、健ちゃん」


加奈子は山口がオーヴァードーズで死んだんだとは頭では理解したが次のアクションをどう起こすべきか思案に悩んだ。


このまま放置すれば死体遺棄。


救急に連絡すれば警察の検死が入るのは必至だ。


そうなれば、普段からシャブ漬けになっている事実が明らかになる。


加奈子は倒れて来た倒木から這い出すように身長185cm体重79kgの巨体から這い出した。

肉棒は先端から半分くらいは、まだ膣内に入ったままだ。


山口の肉棒はまだ硬かった。


このまま合体した状態で死後硬直が始まれば電動バイブのような刺激も楽しめたのではないのだろうか?という不謹慎な考えが脳裏を過る。


警察に覚せい剤使用で捕まっても執行猶予は付くだろう。


だが、宮崎の両親にばれてしまい肩身の狭い思いをさせるのは確実だ。


忝くて合せる顔も無い。


小さな加奈子が巨体の山口を担いで山林や海に遺体を遺棄出来る筈が無い。


こうなったら致し方ない。


加奈子は山口の両足を持って浴室にひきずって行った。


台所から包丁を持って来るが、これだけではバラバラに損壊は出来ないだろう。


加奈子はドンキに走って漂白洗剤とのこぎり、そして、深夜遅くにそれらの品を買ったのを怪しまれないように一番搾りの6缶パック、冷凍ピザ、チキンラーメンの5食入り、それと洗濯洗剤をカモフラージュで購入した。


マンションに戻った加奈子はのこぎりと漂白洗剤を手にして浴室に向かった。


「け、健ちゃん、ゴメン」


包丁を皮膚に入れる加奈子。


鮮血が浴室の床に流れ排水溝に向かって血の轍を作っていく。


有言実行の男、山口 健、享年43歳、ここに永眠、合掌。


その太く短い人生に終わりを告げた。


その頃、温情寺。


『こちら、おまんこ、ジャジャ漏れ、渋谷スクランブル交差点24時』で駆けつけ三杯ならず、駆けつけ三発進行中のオナニー三昧の堺。


うっひゃー、この熟女のおばちゃん、喘ぎ顔もエロいけど垂れ下がった乳房といい乳輪の黒さといい堪んねえなー!!!


CCBの“ロマンティックが止まらない”ならず“右手の上下運動が止まらない”状態突入だ。


パチンコで言うところの確変とでも言ったところだろうか。


シコシコの末、果てそうになるとエリエールの箱からティッシュを3,4枚抜き取る。


人は、これを浪費と呼ぶ。


堺のように、ここまで心行くまで満喫してもらえたならばアダルトビデオ制作会社も作った甲斐があったものである。


ピンドンをまるで水のように流し込みながらオナニーに没頭する堺。


そういえば、高校の頃は右手を恋人と呼んでいたもんだなー。


堺は童貞を卒業したのは仏教大学に通っていた4年生の時だ。


五反田の熟女ソープ【上げマン女将】というソープランドで78歳の寛子さんというおばあちゃんに至れり尽くせりの濃密90分コースでお世話になった。


寛子さんは泉 ピン子みたいな顔立ちで、しかも78歳なのに90分コースで2万円ぼったくられた。


寛子さんは女将と呼ぶには【船場吉兆】の囁き女将ばりに歳を食い過ぎていた。


だが、心とは裏腹にチンコの方は90分間ピンコ勃ちだった。


この男に何を以ってして仏の道を指し示してもらえるのであろうか。


小学校3年生の時にオナニーを覚えて、その後の人生、猿のようにマスを掻き続けた48年の生涯。


史子のヤロー、今度会ったら嫌がろーが何だろーが、アナルにぶち込んでやる。


その日まで右手と心中だ。


因みに、堺は史子と一発決めれる時には檀家から頂いた有り難い御布施から毎回20万払っている。


風俗の商売女とやるよりも金に糸目をつけず素人とやりたいのだ。


因みに、史子は売女なので客の男全員と寝ている。


言うなればセミ風俗嬢みたいなもんだ。


「アー、アー、ウー」


3回目の射精を終える堺。


堺はだみ声で熱唱するジェームス ブラウンの“セックスマシーン”ならず“オナニーマシーン”と化していた。


まだまだ抜き足んねー。


抜かずの三発ならず四発目突入だ。


その前に上半身ミッキーマウスのパジャマ、下半身フルチンのまま冷蔵庫に行きシャンパングラスに並並とピンドンを注いでテレビの前に戻る。


流石に、四発目に突入するとチンコのカリ首の所の皮がヒリヒリしてきたので昔、風俗店の女の子に貰ったオイルローショーンをチンコに塗りたくる。


そして、また右手の上下運動開始だ。


ぬるぬるして気持ちいい。


堺はシャンパングラスのピンドンを一気に飲み干しオナニーに邁進する。


この熱意を仏の道に傾けていたら、どれだけ堺に弔わられた魂は救済されていただろう。


うっひゃー、オナニー最高!!!


その時であった。


「ウッ」


左手で左の胸部を抑えソファーの背凭れに見を預ける堺。


ガクンと頭(こうべ)を垂れる堺。


心不全だった。


堺は『ガープの世界』のT.S.ガープのレスリング部のコーチだった義理の父みたいにオナニー中に突然死したのだった。


心不全にも関わらず右手を恋人だと思っていた堺は決してチンコを放す事はなかった。


オナニーを死ぬまで愛し続け右手が恋人だった男、堺 勝俊、享年48歳、ここに永眠、合唱。


その生臭としての堕落しきった住職人生に終わりを告げた。


2日後の1月3日、温情寺。


捜査一課の原口 勇は鑑識と検死官の園田 慎太郎とともに温情寺の堺の仏と対面していた。


堺に葬儀を依頼していた檀家の遺族が堺が葬儀に現れないのを不審に思い警察に電話したのが発覚の原因だった。


原口が言う。


「おい、八代、ちょっと、これ見てみろ。仏さん、後生大事にポコチンを握ったままぽっくり逝っちまってるよ。参っちまうよな。殺しの可能性は100パー0だな、こりゃ、アハハハハ」


八代が言う。


「原口さん、これ見てくださいよ『こちら、おまんこ、ジャジャ漏れ、渋谷スクランブル交差点24時』なんてのでマス掻いてるなんて変態坊主ですよ、この仏。仏の道ってほんとにあるんですかねー、アハハ」


原口が堺の検死している園田に尋ねる。

園田先生、こりゃ、突然死扱いでいいっすよねー」


園田が射精後の処理に使われた丸まったティッシュの3つの中から1つを摘んで原口に言う。


「原口くん、そうとも言えませんよ。ここにピストルから発射した弾痕が3つありますからね。弾痕だけに男根から発射されたと言ってもいいかも知れませんがね」


「先生、上手い」


原口、八代、鑑識一同が園田の一言に爆笑した。


その頃、加奈子のマンション。


山口の遺体を損壊し次の日の深夜に東京湾に遺棄して来た加奈子はゴム手袋を嵌めて浴室を漂白洗剤で綺麗にしていた。


後は捜査の手が及んできた時にルミノール反応に引っ掛からない事を願うだけだ。


今、手元には山口がギャンブルで稼いだ380万くらいの現金と加奈子のへそくり200万がある。

いっその事、高跳びするか。


だが、忽然と姿を消すと一番最初に怪しまれるのは自分である。


お腹が空いた。


山口の手製の年越しそばを食べてから気が急いてこの二日間、何も食べてない。


加奈子は浴室を洗い終えると冷凍庫を物色した。


冷凍の肉そばがあった。


加奈子は鍋に水を入れ冷凍の肉そばを作り食べた。


健ちゃんのそば、太くて短かったけど美味しかったなぁ~。


健ちゃんの肉棒、太くて短かったけどクリトリスに擦れて気持ち良かったなぁ~。


加奈子は冷凍の肉そばを食べながら願う。


どうか、細く長く逃げ延びれますよーに…

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年越しそば Jack Torrance @John-D

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