才能プレゼント

仲仁へび(旧:離久)

第1話




 プロのサッカー選手になりたい。


 そう思った俺は、遊ぶ時間を犠牲にして毎日練習してきた。


 他の子供たちが遊んでいるのを横で見ながら練習に励むのは辛かった。


 でも、夢のためだと自分に言い聞かせて我慢した。


 他の子が遊びに誘ってきても、断腸の思いで断った。


 すると成果はすぐに出た。様々な試合で期待の選手だと言われるようになって、嬉しかった。


 けれど、上には上がいるみたいだ。


 小学校で入っていたサッカークラブでは、俺よりうまい選手はいなかったのに。


 中学校に上がってみると、すごい連中がゴロゴロいた。


 俺より練習していないのに、俺より真面目に頑張っていないのに。


 毎日遊んでいるのに。


 そんな奴でも、サッカーが上手かったりする。


 そんなの変だって思ったけど、みんな「そんなもんだ」って言う。


 現実は残酷だから、「頑張ったからって報われるわけじゃないんだ」って。


 だから俺は、頑張って練習しても意味がないんだと気が付いたんだ。


 必要なのは長時間の努力でも、真面目にコツコツ頑張る事でもない。


 才能だ。


 才能がなければ始まらない。


 プロになりたいなら、才能のある人間じゃなければダメだったんだ。


 でも、才能を手に入れる方法なんて知らない。


 そんなものは生まれた時に決まってしまうものだから、俺は夢を諦めるしかなかった。


「いいや、才能は手に入るよ」


 そう言われるまでは。





 下校中、下を向いて歩いてたら、黒い服を着たおばさんに話しかけられたんだ。


「なにか悩みでもあるのかい?」って。


 あやしいなとは思ったけど、ついつい悩んでることを喋ってしまった。


 そしたらそのおばあさんが、才能をくれると言ったんだ。


「そんなことできるもんか」って思ったけど、事実だった。


「これはお試しだからね。手品が上手になる才能をあげよう」といって、おばあさんが手のひらをこっちに向けてきた。


 そしたらそこから光のつぶが出てきて、俺の体の中に入っていったんだ。


「ちょうどよく持ち主から帰ってきた才能があってよかったのう」


 何か変なことされたんじゃないかって初めは身構えたけど、でも本当に手品が上手になったからびっくりした。


 おばあさんが手渡してきたカードとかコインを、どうやって動かせばいいのか全部わかってしまう。


 今までやったことがないカードマジックとかコイン隠しとかができるようになってて、びっくりした。


 だから俺は「サッカーが上手くなる才能をください」って頼んだんだ。


 おばあさんは、「いいよ」とすんなりそれをくれた。


 こんなすごいものをもらったんだから、何かお金とか払わないといけないのかと思ったけど、おばあさんは「そんなのいいよ」と言って、手品の才能を俺から返してもらった後、どこかに去っていった。


 こんな幸運なことが世の中にはあるんだな。


 俺はその日から、みるみるサッカーがうまくなっていった。


 その代わりに、やたら疲れやすくなった気がしたけど、そんなのどうでもいいや。





 才能を手に入れたおかげだ。すぐに、新聞にのったり、テレビに出たりするようになった。


 自分がのっている記事をチェックするために新聞を読む習慣がついたり、自分が出ているインタビューを確認するためニュースを見るようになった。


「さすが〇〇選手ですね。素晴らしい才能です」


「本当に将来の活躍が楽しみですよ」


「さて次のニュースですが、先日プロマジシャンの〇〇さんが亡くなられました」


 でも他の事にはあんまり興味ないから。


 僕はすぐ新聞を読みおわっちゃうし、テレビのチャンネルも変えちゃう。


「一夜で売れないマジシャンから一転、華々しい成功を収めた○○さんには病気などの話はなく……」






 学校を卒業した後はすぐプロの世界へ飛びこんだ。


 そしてプロのサッカー選手になった俺は、大活躍。


 スタジアムではスーパープレイを連発した。


 将来サッカー選手になるって子供たちは、みんなの憧れの目を向けてくれるようになった。


 過去にであったおばさんは見るからにあやしかったけど、あの時、才能をもらっておいて良かったな。


 そう思う俺は、一つの試合を終わらせて、控室へ向かう。


 するとたまっていた疲労がどっと押し寄せてきた。


 すごく疲れたな。


 俺はたどり着いた控室で立っていられず、座り込んでしまった。





「はぁ、バスケがうまくなりたいな」


 放課後の体育館。


 部活が終わった後も練習をしていた少年は、あやしいおばさんがいるのに気がついた。


 体育館の入り口はすべてしまっている。


 どこから入ってきたのか分からないそのおばさんは、少年に向かって口を開いた。


「ぼうや、バスケットボールがうまくなる才能はいらないかい?」


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