第18話
「ライアン、今日は魔法制御訓練です。基礎的なことですので、しっかりとこなしてみせてくださいましね?」
わたくしは授業に向かう道の傍ら、ライアンに微笑みを浮かべたまま冷たく言った。第10の作戦、『魔法制御で馬鹿にしよう大作戦!!』を絶賛決行中と言っても過言ではないほどに、ぐずぐずに文句を言えていることだろう。
「はい、義姉上。義姉上の恥にならぬよう、しっかりと取り組みます」
「………………」
最近の彼はわたくしの意地悪に全くもって無反応だ。それどころか、少し嬉しそうにしている節もある。気味が悪いとはまさにこのことだろう。
訓練場に到着すると、そこにはもう教師が到着していた。もじゃもじゃな真っ白お髭にふわふらちりちりのこれまた真っ白ロングヘアー。
「ダンベル先生、お越しいただきありがとう存じますわ」
「いえいえ、向上心の高い生徒は嫌いではありませんから。それより、そちらがお嬢さまの弟君でいらっしゃいますか?」
「えぇ、こちらはわたくしの義弟ですわ」
「ライアンと申します。属性は氷です。よろしくお願いします」
「ご丁寧にありがとうございます。お坊っちゃま」
ダンベル先生はそう言うと、早速授業を開始した。合理的な性格な先生は、無駄話を嫌う。いつも授業は授業で、一切の脱線がない。
「ーーーーー、それでは、魔力を制御してみてください。そうですねー、お嬢さまは出来るだけ小さな炎を、お坊っちゃまはできるだけ小さな氷を出現させてください。詠唱の有無はご自由にしてください。では、始め」
わたくしはふーっと息を吐き出して心を水面のように狂いなく沈めると、ボワンと炎を出現させた。
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わたくしは無詠唱、ライアンは短縮詠唱でお互いの属性の最も簡単な魔法を出現させた。この試験はどれだけ小さく、そして魔力の多くこもったものを出現させられるかが採点のポイントだ。
………わたくしの出現させた魔法よりも、ライアンの出現させたものの方が圧倒的に小さく、魔力が凝縮されていた。わたくしのことですら滅多に褒めない先生ですら、爛々と目を輝かせている。それほどまでに、ライアンの出現させた氷はとても美しくて緻密で、そして、わたくしにとっては酷く残酷だった。
「おぉ、さすがですな、お坊っちゃま。魔力制御がお上手だとはお噂を聞いていましたが、まさかここまでだとは思いもしませんでした」
「ありがとうございます。………義姉上の炎は暖かくて心がぽかぽかします」
わたくしにはライアンの言葉が馬鹿にしているようにしか聞こえなかった。
「………何が言いたいわけ?そんなにわたくしを馬鹿にするのが楽しい?あぁ、楽しいわよね。だって、あんなに意地悪をされたわたくしがこんなにも愚かなんだもの」
「………………」
わたくしはもう限界だった。次々と作戦が失敗に散り、唯一の最も成功確率の高い作戦さえもこんなに粉々に砕かれたのだから、当然の反応だろう。
「ねぇ、なんか言ったらどうなの!?ライアンっ!!」
「あ、義姉上」
「義姉上なんて呼ばないでっ!!あんたなんか1ヶ月しか変わらないのにっ!!わたくしはずっとずっと頑張ってきたのにっ!!大っ嫌いっ!!」
「っ、」
「………先生、今日は体調が優れないのでお暇させていただきます。宿題の方を後でお伝えください」
わたくしは逃げるように走った。走って走って必死になって走って、自室にこもって鍵をかけた。こんな時にも、わたくしは笑うことしかできなかった。わたくしはライアンに向けて『大っ嫌いっ!!』と叫んだ時ですら笑っていた。
「あぁ、本当に、………わたくしはダメな子ね」
ぽろぽろと泣きながら、わたくしは部屋の隅っこでただただ泣き続けた。夜に来る地獄の晩餐の時間が、憂鬱で憂鬱で仕方がなかった。
▫︎◇▫︎
「お嬢さまっ、開けてください。お嬢さま………!!」
「ん、、」
床で丸まっている間に、気づけば当たりは真っ暗になっていて、メアリーの悲鳴が聞こえた。いつまでもうじうじしていてはいけない。そう思ったわたくしは、ふらふらとした熱に浮かされたような足取りで扉に向かい、鍵を開けた。
ガチャリ!
普段と変わらぬ音なはずの鍵を開ける音が、妙に頭に響き、頭痛がした。目の前がぼやぼやと歪んで見えるし、うまくまっすぐ歩けないし、床に丸まって眠ってしまった弊害に心の底から腹が立つ。
「お嬢さま!?な、お顔が真っ赤です。大丈夫ですか!?」
「大丈夫よ。………はぁ、晩餐に行かなければならないのよね?」
「そんな場合じゃございません!!」
メアリーの耳をつん裂くような叫び声に、わたくしは意識を手放した。
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