鬼走の洞で邂逅した小鬼。そして人生が変わった。
久遠 れんり
第1章 新生活の始まりと修行
第1話 ヘタレな父
俺は、目の前で消えて行く小鬼をぼーっと眺めていた。
その後、わずかに体が温かくなるのを感じる。
だが始めて、何かを殺した。
その感覚は残った。
俺はしばらく自分の右手をじっと見た後、小鬼が消えた後に残った、綺麗な小石を拾い。なおも奥へと進む。
俺は山瀬和也。16歳。高校2年生。
おやじは元々ここの出身で、大学進学を機に、田舎は嫌だと四国の山の中を出て都会へと行った。
そのまま、就職。そして結婚。
俺と妹が生まれて、普通に暮らしていた。
ところが最近、込み合う電車の中で痴漢だと疑いをかけられて、もう嫌だと母さんに泣きつき、地元のUターン制度を利用して帰って来た。
痴漢の顛末は、ちゃらそうな女の子が突然「おっさん触んじゃねえ」と言い始めたようだ。
いきなり詰め寄ってきて「いくら出す。穏便に金で解決してやんよ」という女の子。
親父は女の子の甘言に屈せず、ホームへ降りてワイのワイの言っていると、駅員さんがまたかという感じで女の子に文句を言い始めた。
話を聞くと、女の子は常習犯で、金が無くなると適当に因縁をつけて金を巻き上げるのだそうだ。大抵は電車内で話を済ませるが、おやじが痴漢と言う言葉にビビってしまい、ホームへ降りて駅員を呼んだのは正解だったようだ。
それで話は終わったが、近くにいるだけで犯罪者にされるようなところは嫌だと言い出した。言い訳として、じいちゃんたちも年だしとも言っていたが。
まあ普通は、一度疑われて痴漢となると、ほぼ100%確定されるからな。
映画にもなっていたし。
じいちゃんがのちに語った所によると、目撃者がいてもお前も仲間かと疑いをかけられて、どんどん目撃者がいなくなり最後には刑が確定。
会社も首になり、懲罰となるため再就職もできず人生が終わると言っていた。
だからわしは、免許返納は嫌じゃ100まで車に乗るとも言っていたが。
この田舎、電車は無いし、バスも終日数人しか乗っていないよね。
それはさておき、母さんは父さんの涙に根負けした。その為、家の家族は夏休み前に田舎へと越して来た? いや、じいちゃん家へ帰って来た。
じいちゃんは、家の裏手。
山の中にある小さな社(やしろ)も守っている。
この辺りによくある、氏神様かと思ったが、それだけではなく歴史は平安から1000年以上続く由緒があるらしい。
社の裏側にある森には、洞窟があり、鬼が出るとの話が残る。
結界と呼ばれる、しめ縄が張られており、入っては駄目だと教えられている。
山の脇には、谷がありその向こう岸には家の田んぼがある。
この谷の下流には、有名な大きな川がある。
この谷。夏でも水は冷たく、泳ぐとすぐに唇が真っ青になる。
魚は居て釣れるんだけどね。鑑札と言う遊漁券がないと怒られると言うことだ。
まあ転校は面倒だが、年に2回から3回は来ていた所。俺も妹もそんなに嫌じゃなかった。従妹たちも車で1時間以上かかるが、市内の方には居るし。
そして、
ガスで炊かれるごはんが、凄くおいしい。
多分ご飯だけで、ごはんが3杯は食べられる。
じいちゃんが言うには、水が良いからだと言っていた。
「地の水で育て、地の水で炊くと当然うまい」
と言う事らしい。
宿題の無い夏休みと思ったら、転入する学校からしっかり出され、新学期には出すようにと言われた。ざんねん。
やかましいほどセミが鳴く、田んぼの畦道をふらふらと俺は歩いていた。
じいちゃんの話で、うなぎが居たら捕まえて来い。土用の丑の日は過ぎたが、七輪で焼くうなぎはうまいぞと言われたためだ。
竹製の魚籠(びく)と蟹ばさみという、普通の鋏で本来刃がついている部分にとげが生えている道具を持たせてくれた。(子供のころは、みんな蟹ばさみと言っていましたが、調べると、ウナギばさみとか魚ばさみという名前で売っているようです)
「うなぎだけじゃのうて、ツガニや手長も、おったらつかまて、えいき」
じいちゃんからそう言われるが、無理。
「わかった。居(お)ったら捕まえるけど、素人やきねえ」
「あてにはしちょらんき、ええわえ。いかんかったらスーパーへ行くき。かまん」
と言われた。
言葉でわかる通り、高知の山の中。
ツガニというのは、モクズガニ。手長はテナガエビ。それを素人の高校生にハサミでつかんで来いとおっしゃる。
※ちなみに、高知の市内で使う土佐弁。中村方面で使う幡多弁や市内の東側の土佐弁と山に入って本山弁。ほかにもあるのですが、かなり言葉が違います。土佐弁で書いてもいいのですが、ニュアンス的に難しい言葉もあるのでファンタジーの定番。言語理解が発動します。
妹に声をかけるが、アブが居るから嫌と言われた。
そうなんだよ。川に行くとぜったい出るんだよ。1cm程度の小さいイヨシロオビアブ。もっと大きいキンイロアブ。そして、たまに気が付かず血が流れているときもあるので、ブヨもいる。
さて、これに虫取り網も装備に加えて、いざ谷へと降りる。
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