君に紡ぐ春。

@yuzu_dora

仮面

ぼんやり映る誰かの視点。

血飛沫が飛んでいる。

段々とはっきりしていく視点。

血塗れの掌。



スミレの部屋

飛び起きるスミレ。

動悸と脂汗が止まらない。



教室

スミレと友達①・②がお昼ご飯を食べている。


友達①

「聞いてよー。」

友達②

「また愚痴ー?」

友達①

「いーじゃん。ここしか吐き出せないんだからぁ。」

友達②

「しょーがないなぁ。どーした?」

友達①

「ママがさ、また門限厳しくしたの。ちょっと遅くなっただけなのに。」

友達②

「あー、うちも。スマホ制限掛けられてる。」

友達①

「私らに比べてスミレは良いよね。お母さん、特に何も言って来ないんでしょ?」

スミレ

「…まぁね。」



リビング

母親が料理を作っている。

その背中を見ているスミレ。


母親 

「スマホ、新しい機種が出たらしいわよ。変えたら?」

スミレ

「いいよ、使いこなせないし。」

母親 

「あんたさ、イマドキの女子高生なんだから、らしい事したら?」

スミレ

「……。」

母親 

「最近、ブスになって来てる。お母さん恥ずかしいよ。化粧とかしなさいよ。」

スミレ

「いや、学校は禁止だから。」

母親 

「皆やってるでしょ、そんなの。昔は可愛かったのに。」

スミレ

「……。」

母親 

「折角、帰る時間も自由にしてやってるんだから遊びに行ったら?

こんなに理解ある母親って珍しいのよ。」


スミレ、自分の部屋に行く。



スミレ宅の玄関

靴を履く背中の丸まったスミレ。

笑顔で手を振る母親。


母親 

「行ってらっしゃい。」



通学路

歩いているスミレ。

微かに母親の声が聞こえる。

振り向くが誰も居ない。


どんどん大きくなる母親の声。

重複していく。


「可愛く産んであげたんだから。」

「どうして隣の家が出来る事あんたは出来ないの?」

「あんたは普通の子の倍はお金が掛かっているの。」

「こんな低レベルの大学の人間に教わって恥ずかしくないの?」

「あんたは良い大学に行くの。」

「これは世間の常識。」

「こんな常識も知らないの?」

「もっと私に思いやりを持ちなさいよ。」

「自意識過剰。」




屋上

フェンスを乗り越えようとしているスミレ。

誰かの手が伸びる。


女生徒

「何?なんで?」

スミレ

「……えっ、えっ!?」


階段側の壁を背もたれに座る2人。

女生徒の側には伏せられた本。

暫くの沈黙。


女生徒

「言いたくないなら良いけど。」

スミレ

「……。」

女生徒

「取り敢えず、私の時間の邪魔しないでよね。」


本を読み直す女生徒。

その隣で空を見るスミレ。



スミレ

「……ここに居ても良い?」

女生徒

「勝手にすれば?」

スミレ

「……ありがとう。」


静かな時が流れる。

スミレ、啜り泣く。


女生徒

「やっぱり聞いて欲しいんじゃん。」

スミレ

「……ごめんなさい。大丈夫。」

女生徒

「あっそ。」


スミレ、我慢しようとするが涙が止まらない。

女生徒、少し怪訝そうにするがスミレの方を向く。


女生徒

「私、カスミ。」

スミレ

「スミレ……です。」


カスミ

「これ、あげる。」


カスミ、鞄から本を取り出すとスミレに投げ渡して去る。


「あなたの物語」のタイトル。


表紙を開くと「これは、あなたが紡ぐ物語」の一文。

後は白紙。

スミレ、ペラペラめくる。

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