⑪似てない兄妹姉妹
それにしても、全く違う様々な状況の中で出会った3人が、この場に揃った訳だが、実に個性的な連中である。
「ヒゲ、肉ばかり、飽きる。貯蔵庫の棚の1番上、酒が有るから取って来い」
見た目だけならば、1番年下に見えるワレメが、
「…姉御、俺が持って来るから話を進めておけ」
と、クマが気を利かせて立ち上がろうとして腰を浮かせかける。
「いやいやいや、こーゆー時こそ私が行った方がいいんですけれどおねーちゃんは私のお腹をマクラ代わりにするのを止めてください!!」
そんな二人の間に割って入るポンコはと言えば、自分に抱き付いて離れようとしないワレメを引き剥がそうと必死である、って何なんだよお前ら…お似合いの兄妹姉妹じゃないか。
「…それで、何の用で来たんだ?」
こっそり持ち込まれたとっておきの果実酒を酌み交わしながら、俺がワレメに尋ねる。するとクイッと小振りな盃を干した後、ワレメが細長の眼を更に細くしながら口を開く。
「…ヒゲ、お前、化け物と交わったな」
「…見ていたのか?」
俺が尋ねると、ワレメはさも当然と言いたげに頷き、大人しく聞き耳を立てていたニイの方に視線を流してから、
「…じゅちゅちゅ…じゅーちゅち…えふん、じゅちゅちゅち、何処にでも居て、何処にも居ない。その代わり、眼と耳は良い」
そう言うと頭の上から茶色い耳を、ヒョコッと飛び出させた。ふーむ、お前もそうなのか…と思ったが、何故獣人のNPCに高い能力が与えられるのか全然判らん。ならば、クマも頭のてっぺんから耳が生えるのか?
「ねぇねぇ! あれは一体何なのよ! クモみたいだったりヘビみたいだったりしてさー!! ねぇねぇねぇ!!」
突然割り込んできたサキが、顔を赤くしながらワレメに絡み始める。まあ、確かに俺も答えは聞きたいんだが…
「…話の続きは明日だ。騒がしいのは好かん」
「ひょ~っ!?」
クマが横から割り込んだかと思うと、そのまま二人を引き剥がし、サキを払い腰で寝床へと放り込む。酔いの回っていた彼女はふにゃにゃと意味を成さない笑いを漏らしながら、直ぐに寝息を立て始めた。
「…あいつらは【這い寄りし影】と呼ばれている。生き物を喰らって取り込み、姿を模して成長する」
翌朝、クマに知りたい事を教えてやると言われた俺とサキは、ポンコとワレメを伴って集落を後にした。そしてその道すがら、クマは歩きながら化け物について語り始めた。
「…その這い寄りし影って奴は、何時から出て来るようになったんだ?」
「…何時から? 昔から常に居たぞ」
クマの話では、過去から現在まで常に存在していたらしい。しかし、そうなると…ゲーム開始前から居た事になる。だが、本当にそうなら連中は発売版が配信される前から、仮想空間に居たのか? そんなチーターじみた連中が最初から潜り込んでいたのに、どうして開発者は気付かなかったのだろう。
「ねぇ、そんな厄介な奴らが居るんなら、どうしてみんなで団結して倒さなかったの?」
サキが彼女なりに疑問に思った事を尋ねると、クマは刺青だらけの顔をしかめさせてから答える。
「…武器を持った奴等は、自分の方が強いと勘違いしている。【這い寄りし影】は獣の姿に化け、獲物が来るまで身を潜めて待っている…だから、他の奴等には見えない」
「…そうなんだ。じゃあ、探すだけ無駄だなぁ…」
落胆するサキだったが、クマは真剣な彼女の様子に表情を和らげると、諭すように語りかけた。
「…無駄じゃない。これから連れていく所に行けば、連中の正体が良く判る」
そう言ってポンコに目配せすると、ポンコは露骨に嫌そうな顔をした。
「うえぇ…ホントに行くつもり!? …やだなぁ、あんな気味の悪いとこ…」
そうは言いつつも強く反対する気は無いらしく、隠していた耳と尻尾を出しながら大きな木の根元で地面に手を着け、何か念じ始めた。
「…はい、出来た。…でもホントに行くの? 止めといた方が良いと思うけど…」
そう言って立ち上がったポンコの背後に、前に見た時と同じ奇妙な洞窟がぽっかりと開き、こちらを招くように奥から光が漏れ出ている。
「この先に【這い寄りし影】の巣が有る。但し、戦おうとは思うな。様子見に行くだけだ」
クマが念押しして洞窟の中へと進み、俺とサキ、そしてポンコとワレメが後から続く。
「…ねぇ、前から不思議だったんだけど…ポンコはどうして近道が作れるの?」
5人で
「どうして、ですか…? う~ん、そう聞かれても…」
…おいおい、即答出来んのか? ポンコの困惑する姿に思わず突っ込みたくなった時、それまで静観を決め込んでいたワレメが割って入る。
「…ポンコ、森の巫女。だから森と森を繋げる道、作る。クマ、森の戦士。だから戦う。ワレメ、森の呪術師。だからみんなの仲を取り持つ。何か不満か、サキ」
それまでの柔和な態度を一変させて、ワレメが真顔で問いかけると、サキもやや戸惑いながら無言になる。いや…彼女に3人各々の役割りを否定するつもりは無いだろう。
「サキ、3人は各々役割りがあるから、出来るのは当然だろ」
「…えっ? う、ううん…まあ、そうだね…」
俺が少しだけ強めの口調でそう諭すと、サキは驚きながら視線を落とす。けれど彼女の耳元に顔を寄せて(…後で話すから、今は大人しくして欲しい…)と告げると、前を向いたまま、表情を変えず頷いた。
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