小さな電車旅
どーらく
小さな電車旅
「腹が減った」
夕飯を食べに最寄りの改札を抜けモバイルSuicaにチャージしながら
電車を待っている青年は向かい側に見えるマクドの看板を見て
口癖のようにつぶやいた。
何とはなしにつぶやいた彼の一言に近くにいた学生からちらっと見られた。
恥ずかしくなってポケットに手を突っ込んだ。
5分ほど待って乗った電車は夕暮れ時のせいか
学生とスーツを着ている社会人が多くいた。
つり革に掴み、揺られながら次の駅へ行くと前の若い女性降りたので
ツイていていると思い座席に座った瞬間、景色が変わった。
目に広がる窓の景色は真っ暗で
まるで終電に乗っているかのように私一人しかいなかった。
目をこすってみても、立って車両内をうろうろしても何も変わらなかった。
まぁ一人なら、と
車両を移動して他の座席へと腰を下ろした。
すると辺りは一変。
海辺の夕陽が映っていた。
面白くなった彼は、座る場所を変えて車両中をあちこち動き回った。
ある時は早朝の青みがかった空が。
ある時は立つのが難しいほど揺れていたりと
色々な風景や時間を味わった。
満足した彼は元居た座席に座ると
何事もなかったかのように元居た場所へと戻っていた。
目的の駅に着きそうだったのでモバイルSuicaの残金を見ると310円。
電車へ乗る前に3000円チャージしたはずなのだがマルっとなくなっていた。
目的地まで二駅だったため問題なく降りれた。
改札口を通って改めて考えたが、座席を変えるたびにお金がかかっていたのだろう。
「腹が減った」
青年はそうつぶやき来週のバイトをどこで増やそうか考えながら
ラーメン屋へと向かった。
小さな電車旅 どーらく @do-raku
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