88 相談事
「誕生日プレゼント?
メイド喫茶の飾りつけに使用した段ボール。
わたしはそれを捨てに廊下を歩いていると、偶然にも
わたしは相談できる相手が少ない……というか、ほとんどいないので、ここなちゃんに聞いてみたのだ。
声を裏返して驚かれたけど。
「うん、どういうの贈ればいいと思う?」
「どういうのって……。そんなの人によって変わるでしょ」
至極真っ当な意見です。
「だ、だよね……」
「誰なのよ、あんたがお兄ちゃん以外にプレゼント贈るなんて」
当たり前のように進藤くんが除外されてる辺りは、ここなちゃんのわたしに対する理解度って結構上がってる気がする。
「
「まあ、でしょうね」
ほとんど予想の範疇だったのか、ここなちゃんは特段驚いた様子もなかった。
「何を好き好んであんたも
「えっ」
つ、付き合ってる、って……。
な、なんでここなちゃんが知って……!?
「何よ、いつも仲良さそうに
「あ、そっちね……」
危ない、危ない。
勝手に自爆する所だった。
「誕生日プレゼント渡そうとしてるのに、驚く意味わかんないんだけど」
「はい、その通りです」
ここなちゃんはいつもわたしに手厳しい。
「それで、ここなちゃんは何かいいアイディアあったりする?」
「あいつの趣味なんて、ここなが分かるわけないでしょ」
「……ですよねぇ」
「それこそ、あんたの方が知ってるんじゃないの?」
「いや、それがよく分からなくて……」
自分でも思い返そうとしてみて、凛莉ちゃんが好きな物ってよく分からなかった。
「随分と薄情なのね。仲良しならそれくらいは知っておいても良さそうなのに」
ここなちゃんの容赦ない一言がグサグサと心に刺さる。
「……そうだよねぇ」
友達を超えて、今は恋人同士なのに。
我ながらこの理解度ってどうなんだとは思う。
凛莉ちゃんはわたしのことを知ろうとしてくれていたけど、それに胡坐をかいていたのかもしれない。
「調査が足りないのよ、調査が。こうなる前に色々と探っておくものでしょうが」
「……はい」
「分かんないものは仕方ないんだから、直接聞いたら?」
「……最終手段はそうするかな」
「すぐに聞くつもりはないのね」
「うん……」
凛莉ちゃんもわたしの好みを知ろうとしながら、プレゼントをくれたから。
出来るならわたしも同じようにしてお祝いしたいと思っている。
「まあ……それなら後は日奈星凛莉にそれとなく聞いて探ってみることね」
「うん、そうする。ここなちゃんありがとね」
自分のいけない所を気付かせてくれたという意味でも、ここなちゃんには感謝しないといけない。
「……別にこれくらい普通だから。いちいちお礼なんか言わないでよっ」
ここなちゃんは鼻息荒く去って行く。
お礼を言うだけでも怒られるなんて。
人間関係は難しい。
◇◇◇
ゴミの廃棄場所は校舎の外にある。
上履きからローファーに履き替えて、正門を曲がって歩き続ける。
その間も、頭の中は凛莉ちゃんへの誕生日プレゼントのことになる。
凛莉ちゃんの好み……。
聞き出すにしても、結局何をするにもセンスのないわたしだと凛莉ちゃんにすぐにバレてしまう気がする。
結局、直接聞くしかないのかなぁ……なんて諦めムードが漂いつつある。
「おっと、ここだった」
気付けばゴミ捨て場を通り過ぎようとしていた。
危ない、危ない。
「あれ、でも扉開いてるな」
他の生徒が捨てに来ているのかな。
どうしよ……一回戻ろうかな。
なんかこういう密室でよく知らない人と会うのって、気まずいし。
うん、そうだよ。そうしよ。
わたしはくるりと反転する。
「あれ、涼奈ちゃん。君もゴミ捨て?」
知っている声がわたしを呼び止める。
「……
「やあ、奇遇だね」
二葉先輩は手をひらひらと振っていた。
「何か考え事?」
「え……」
何で言い当てて来るの?
「段ボール持ってるのにここ通り過ぎてたし、そうかと思ったら明後日の方向に向かおうとするし」
あ……全部、見られてたんですね。
確かに客観的に見られると、ただの怪しい人だ。
「え、ええ……まあ、ちょっとだけ……」
「どうしたの?」
……うーん。
さっきここなちゃんと話して結論は出ちゃったような気もするけど。
でも他の人の意見を聞いておくのも悪くないのかな。
「友達の誕生日に何をあげようか考えてまして」
「ああ、あの子のことね」
人生の先輩は色々と察するのが早い。
「何がいいのかな、なんて考えてたんです」
「うんうん、それなら涼奈ちゃんをあげたらいいんじゃない?」
「……はい?」
急に日本語がおかしくなったよ、この人。
「自分にリボンをつけて、プレゼントは“わたし”……みたいな?」
「みたいな、じゃないですよ。誰が喜ぶんですか、それ」
「あの子は喜ぶと思うけど……?」
「そんなの先輩くらいですよ」
相談相手を間違えてしまった感が否めない。
「あ、うん。私なら受け取ってあげるけど?」
「……受け取るって、人を物みたいに言わないで下さいよ」
「この場合の“わたし”がプレゼントの意味って、そういうことだからね?」
「どういうことですか」
「体を差し出すってこと」
「……えっと、それって」
なんか、変な意味に聞こえるんですけど。
「裸の付き合い的な?」
やっぱりそうじゃんっ。
「的な、じゃありません」
「きっと喜ぶよ、あの子なら」
「ていうか、そんなんじゃないですからっ」
「……ちがうの?」
「違いますっ」
「……あら。早とちりか」
間違えちゃった、と大して気にもしてなさそうにわたしの横を通り抜ける。
「ま、そういう関係じゃなくても。涼奈ちゃんならそれで一発KOできるよ」
「ずっと何言ってるんですか?」
二葉先輩は掴めない。
◇◇◇
「だーかーらー。あんたに言われなくてもやるって言ってるでしょ」
「なら早々に行動して下さい。今すぐに」
教室に戻ると、凛莉ちゃんと
何やら不穏な空気だ。
「なんか、このクラスだけ片付けの進行が遅いんだって。それで金織が手伝いに来たら凛莉が文句言い出したの」
「あ、そうなんだ……」
わたしが状況を把握できずにいると、
彼女から声を掛けてくるのは、結構珍しい。
「メイド喫茶で内装も気合入れたんだから、片付けも時間掛かるに決まってるでしょ?」
「ですから、こうして私が手伝いに来たのではありませんか」
「それが要らないって言ってんのよ。あんたは自分のクラスをやりなさいよ」
「私のクラスならもう既に終わっています」
「はやっ」
「すぐに終わるよう、片付けの計画も事前に済ませてありましたから」
さすが金織さん。
準備だけでなく片付けまで見越してるなんて、手際が良すぎる。
「とにかく、ここのクラスだけ予定よりかなり遅れているんです。帰宅時間にバラつきが出てしまっては不満が出る恐れもあります。私の指示に従ってください」
「要らない、あんたがいると集中できないっ」
「元々足りない集中力の貴女のことなんて期待していません」
「言い過ぎでしょっ」
「正当な評価です」
とにかくいがみ合う二人。
「ねえ、アレ。雨月がどうにかしてよ」
橘さんが気だるげに無理難題を押し付けてくる。
「わたしがっ?」
「あの二人とも仲いいの、雨月だけでしょ」
さ、さてはそれを言う為にわたしに近づいて来たな橘さん……。
食えない人だ……。
けど、お願いされると断れない……。
「あ、あの……二人ともちょっと……」
わたしは恐る恐る二人の間に割って入る。
「涼奈。聞いてよこいつが――」
「雨月さん。聞いてくださいこの人が――」
二人ともわたしに声を掛けて重なって、また睨み合う。
「涼奈はあたしに声を掛けに来たんですけど?あんたじゃないんですけど?」
「雨月さんは“二人とも”と仰っていましたから私も含まれていますが?言語理解能力まで衰退してしまいましたか?」
うん、ムリ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます