65 秘密の場所はどこに
「もうっ、最近
「ヤバイって?」
「変態度が」
「……?」
「一人で脱がさせるわ、胸を噛み出すとか……誰の何の影響受けたんだか」
それなら、答えは分かり切っている。
「凛莉ちゃんの影響でしょ」
「そこまで凄いことやってないからっ」
影響なんて、そんなものだと思うけど……。
でも凛莉ちゃんは聞く耳を持たないので、黙っておく。
凛莉ちゃんの胸に跡が残れば、わたしは多少の理不尽も受け入れられる。
「ほら、教室戻ろう」
いつまでもここにいても仕方ない、と凛莉ちゃんはわたしの手をとって歩き出す。
何だかんだ言いながら、凛莉ちゃんはわたしのことをリードしてくれる。
――ガラッ
音楽室の扉を開けると、ちょうど人が通りかかった。
「
まさかの生徒会長だった。
「げっ、
「……そこまで露骨に嫌な顔を見せるなんて、いい度胸ですね」
さっそく二人は犬猿の仲だ。
「あんたが勝手にあたし達の前を通りかかったからでしょ」
「凄まじい言いがかりですね。そもそも、お二人で昼休みに音楽室なんて何の用があったのですか?」
「なっ、何でもいいでしょ」
咄嗟に反応できず、突っぱねるだけの凛莉ちゃん。
それじゃ金織さんにツッコまれるだけだと思うんだけど……。
「怪しいですね、何かやましいことをしていたのではないですか?」
「べ、べべっ、別にしてないしっ」
していたと言わんばかりの反応。
わたしに噛まれるのは、凛莉ちゃん的にやましい行為に入るらしい。
……そりゃ、そうか。
「それならば素直に言えるはずです。何をしていたのですか?」
「べつにっ、ふつーに、音楽の復習っ」
「そこまで勉強熱心な方だとは知りませんでした」
「ふんっ、あたしだって二年生からは勉強に力入れてるのよ。やる時はやるんだから」
「そんな勉強熱心な方が中間試験を3日後に控えている状況で、テスト範囲ではない音楽の復習だなんてとても違和感がありますけどね」
「……ええと」
墓穴を掘ったな、凛莉ちゃん。
「だいたいさっきから貴女、いつもより顔が赤くありませんか?」
「はっ、ちがっ、そんなことないしっ」
……多分、一人で服を脱ぐの恥ずかしがってたから、そのせいだと思う。
でも言えるわけない。
「慌てているのがその証拠。よからぬ事をしていたと素直に白状したらどうですか?」
「別に変なことなんてしてないしっ。……むしろ、された側っていうか?」
「された側……?」
まるで凛莉ちゃんが被害者側のような発言。
必然的にもう一人しかいないわたしが加害者側のように映る。
金織さんの視線がわたしの方を向いた。
凛莉ちゃん、対処しきれないからって最後だけわたしに擦り付けないでよ。
「あのですね。雨月さんのような落ち着いた方が、貴女みたいな非常識な人に変なことをするわけがないでしょう。嘘で罪を押し付けるのはお止めなさい」
と思いきや、金織さんは全然信じていなかった。
「いやいや、押し付けなんてしてないからっ。本当のことしか言っていないからっ」
「それなら素直に言ってみてください。何をされていたんですか?」
「だからっ、それがはぁ……もうっ」
凛莉ちゃんは八方ふさがりになっていた。
胸を噛まれていたなんて、人には言えない。
だからわたしも黙るし、凛莉ちゃんも黙る。
「はあ……本来、音楽室の出入り自体を禁止されているわけではありませんから、問題はないのですけどね」
「なっ……そ、そうでしょっ。なによ文句なんて吹っ掛けて来ちゃってさ」
「だからと言って無断で何をしていいという事でもありません」
きっぱり金織さんは言い切って、わたしたち二人は言葉を失う。
「今回は不問にしておきますが、お二人ともあまり誤解されるような行動は避けるように」
「はい、すみません……」
「あーい」
やっぱり学校は怪しまれるからダメかな……。
けれど、凛莉ちゃんの噛んだ跡はすぐに消えてしまう。
ずっと残すなら定期的に噛まないといけない。
だとするなら……やっぱり家なのかな。
そんなことを思った。
◇◇◇
週が明けると、中間試験が始まった。
テスト期間は、あまり楽しい時間ではない。
この世界での成績が、今後のわたしにどう影響するかなんて未知数だし。
けれど未知数だからこそ、ある程度の点数はとっておくべきだと結論づけてわたしはそれなりに勉強を頑張った。
凛莉ちゃんと勉強したり、進藤くんとヒロインとの勉強会を開いた甲斐もあり、テストはそれなりの手ごたえがあった。
テストを終え、家に帰り復習する日々が過ぎていく。
「やっと、終わったー」
進藤くんは椅子に座りながら大きく伸びをする。
中間試験最後のテストが終わったからだ。
「涼奈、テストどうだった?」
進藤くんはこちらを振り返って聞いて来る。
「まあまあじゃないかな。すごく悪いってことはないと思う」
「そうか、それは良かったな」
「……うん」
「……」
無言なのに、進藤くんは前を向かない。
「……そういう進藤くんはテスト、どうだったの?」
なんか明らかに聞いてほしそうだったから聞いてみた。
「ふっ……そうだな」
すると進藤くんはいきなり遠い目をして窓の外を眺めだした。
「見ろよ涼奈、鳥が飛んでるだろ」
鳥の姿はどこにも見当たらない。
「こんな大きな青空を、翼で羽ばたくってどんな気持ちなんだろうな」
今日は大雨で曇天、だから鳥なんて飛んでいない。
「つまりテストの成績なんて、地球視点で見れば取るに足らないってことさ」
教室の窓の景色しか見えてないくせに地球視点とか頭おかしい。
「……」
「なんか言えよおおおおおっ!!」
「現実逃避するのは勝手だけど、低クオリティなポエム押し付けるのやめてくれない?」
「辛辣ぅぅぅぅっ!!」
どうやら進藤くんのテストは上手く行かなかったらしい。
結局誰のヒロインとも勉強してないだろうから仕方ないのかもしれない。
最初のイベントである中間試験では、進藤くんとヒロインとの発展はなかった。
だがまだイベントはある。
次に備えて、わたしは準備していくだけだ。
必ずバッドエンディングは避けてみせる。
「涼奈ー、テストどうだったー?」
凛莉ちゃんが声を掛けてきた。
「それなりかな。凛莉ちゃんは?」
「んー。あたしの中では上出来かな。涼奈が教えてくれたお陰だよ」
そんな大したことはしていないけど、凛莉ちゃんにとって良い結果だったのは嬉しいことだ。
「まっ、もうテストは終わったんだしっ。帰ろうっ」
「そうだね」
わたしたちは学校を後にする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます