07 放課後の待ち合わせ
放課後、学校という縛りから解放される時間。
「よし、
振り返ってわたしに声を掛けてくる
次の縛りは目の前からやって来た。
「あ、いや――」
“今日は用事がある”と言いかけて
――バンッ!!
「お兄ちゃん、帰るよ!!」
ここなちゃんが現れた。
「こ、ここな……いいかお兄ちゃんは用事があって」
「ないでしょ!帰るだけでしょ!」
「いや……すず」
「
完全にここなちゃんの剣幕の方が上だった。
本来ならここで雨月涼奈も参戦して、事態は混乱していくわけだけど……。
「二人とも気を付けて帰ってね」
「雨月涼奈、これも譲るの!?」
あっさりと認めたわたしに、ここなちゃんは肩透かしをくらっている様だった。
「うん、今日はわたし用事があるから……」
ちらっと視線を教室の中央にずらす。
そこには女友達と談笑している
クラスで彼女と接している回数が増えると奇異な視線を集めてしまうことは分かり切っている。
「じゃあまた明日ね。進藤くん、ここなちゃん」
わたしは二人に挨拶を済ませて足早に教室を後にした。
「……お兄ちゃん、雨月涼奈に何かした?」
「なんもしてねえよ」
「……お兄ちゃんのモテ期、終わったんだね」
「そんな瞬間いつあった!?」
◇◇◇
玄関の手前、廊下の隅っこでわたしは日奈星さんを待つ。
窓から夕陽が差し込み、景色は茜色に染まっていく。
部活に行く人と、そのまま帰る人たちが行き交っている。
どちらにしてもその足取りは軽そうだった。
そんな中、わたしはそわそわと落ち着かずにいる。
「冷静に考えて……日奈星さんと放課後にどこかに行くのも大胆な行動の気がしてきたんだけど……」
大人でも声をかけるような美少女、
そんなことがわたしに可能なのだろうか。
何かおかしなことをしてしまうんじゃなかろうか。
「……か、帰ろうかな」
考えていたら段々と不安になってきた。
今ならまだ間に合う。
家に帰ってなかったことにすることも可能だ。
そうだ、そうしよう。
そうと決まれば、足は勝手に玄関に向かって歩き出していた。
「あっ、雨月さんいたー。先に行かないでよ、探したじゃん」
……が、階段を下りてきた日奈星さんに運悪く見つかってしまう。
神様はわたしに約束を守れと言っているらしい。
「ご、ごめん……。日奈星さん話してるから先に待ってようと思って」
「じゃあ教室で待っててよ。いないと分かんないし」
「……伝えておけばよかったね」
教室で一緒にならないにしても、それくらいはしておくべきだった。
脱出したい気持ちで、急かされたんだと思う。
「あ、じゃあ連絡先交換しようよ」
「……え」
そう言って日奈星さんはスマホを取り出した。
淡いピンク色のカバーにキャラクターのイラストが描かれている。
彼女らしいなと思った。
「はい」
メッセージアプリを起動して、連絡先を交換しようとしている。
何だか、どんどん日奈星さんに距離を縮められている気がする。
「……あの」
でも気は進まない。
「これなら周りとか関係ないし、いいよね?」
「……うん」
かと言って断る明確な理由もない。
日奈星さんの勢いに押されて、連絡先を交換した。
そのスマホを眺めて、止まる。
日奈星さんのアイコンは、真っ白な壁と北欧を思わせるアンティークな家具を背景にゆるいパーカーとショートパンツを履いて座っている姿だった。
……かわいい。
こんなオシャレな空間に負けない存在感。
というか、超シンプルな服装なのに何でこんなに可愛いんだろ。
パーカーの色はグレーで、ショートパンツはブラック。
至って普通の恰好、なのに可愛い。
もうこれは容姿の美しさとスタイルの良さとしか説明がつかない。
「あ、あの雨月さん?そんなにスマホ見つめてどうしたの?」
「……いや、日奈星さんって反則だよね」
「え、なにが?」
「こんな普通の恰好で可愛いとか勘弁してよ。わたしが着たら部屋着だよコレ」
「あ、ああ……それ見てたんだ」
「しかもこの画像加工してる?してないよね?」
「え、なにいきなり」
「素材勝負にも程があるよ。こんなの出されちゃみんな太刀打ちできないよ」
こうなると日奈星さんと一緒にいるリア充女子も可哀想なのではないかと思えてきた。
こんなに輝いている女の子と肩を並べようとしたらプライド勝手に折られていきそう。
「いや、ほら。足の太さとかは流石に修正してるし」
「ええ……?」
言われて、画像をスワイプして拡大してみる。
「いや、そんな足だけ拡大しないでよ……恥ずかしいんだけど」
わたしは彼女の画像と、制服の短いスカートから覗かせる現実の足と見比べる。
「どっちも一緒じゃん」
すらりと伸びた綺麗な足だ。
というか基本的に足が長いから、一般人とは物が違う。
「ほ、褒められてる……?」
日奈星さんは心なしか頬を染めているようだった。
なんでだろう。
これくらいのことは聞き慣れているだろうし、わたしの言葉に照れる理由もない。
当たり前のことすぎて、今更言うなよって感じなのかも。
◇◇◇
そんな無加工で美しい日奈星さんと肩を並べて放課後の街を歩いている。
……さっきの画像を見たせいだろう。
やっぱり遠い存在なんだと再認識して、居心地の悪さを感じていた。
「雨月さん食べたいものある?」
「……うーん。特にこれというものはないかな」
「飲みたいものは?」
「……喉、そんな乾いてないかな」
日奈星さんは明らかに困ったように笑っていた。
「いや、それじゃ何もできないって」
「そうだね、じゃあ……」
と考え込もうとするが集中できない。
原因は周囲の視線だ。
やはり日奈星凛莉は目立つ。
例に漏れず、行き交う人の視線(主に男)が集中し隣にいるわたしはバツの悪さを感じている。
「……なんか、気になることあった?」
日奈星さんはそんなわたしの様子に気付いて、割と心配そうな声を掛けてくれる。
「いや、日奈星さんの隣にわたしみたいなモブが歩く事が申し訳なくなってね……」
「もぶ……?」
「冴えない女ってこと」
やれやれ。
とにかく店に入って、手早く用を済ませてお別れしよう。
「雨月さんは可愛いじゃん」
けれど、日奈星さんはわりと真剣な声でそんなことを言ってきた。
「……気を遣ってくれてるの?気持ちはありがたいけど、わたしは自分の身の丈を理解してるから大丈夫だよ」
日奈星さんは優しいから、わたしを褒めてくれるのだろう。
でもそれは適正な評価じゃない。
可愛いのは日奈星さんのような容姿が整って、自分磨きを怠らない子のことを指す。
決してわたしのようなパッとしない子を指すものではない。
「本気で言ってるけど」
……ん。
さっきよりも熱を帯びた言葉が耳に届いて、聞き流せずに視線を日奈星さんに向ける。
その唇は固く結ばれていて、その瞳は真っすぐわたしを見据えていた。
「あたし、雨月さんはマジで可愛いと思ってるけど」
……日奈星さんぽく言うと、マジ感がハンパなかった。
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