第7話 幕引き

「え!?そ、そうなの・・・?

幸ちゃんそうなの?

そんなに放置されているの?・・・・あら大変!それは問題ね。ネグレクトかしら?今度PTA会議で議題に取り上げなくちゃ。

それも早急に」

雅子は、情報屋でありながら、そこまでの状況を把握していなかったことを恥じた。


「・・・・・・まあ・・・そ、それもそうね、幸ちゃん、ちゃんとご飯食べてるのかしら」

美貴は急に深刻な顔になった。


「確かに・・・・心配よね。よく考えてみれば・・・あたしたち、自分の子供のことばかり心配してるけど・・・」

樹里亜も、突然に切り替わり母親の顔つきに戻った。



常識があるのか無いのかわからないが、とりあえず、彼女達も人の子であるらしい。

生死に関わることになれば話は別だ。





「・・・・ねえ・・・・まだ続くの・・・・?この醜態劇場」

美貴は我を取り戻し、皆の顔色を覗いた。



「そうね・・・もうそろそろこの辺りでやめておきましょか」

樹里亜も申し訳なさそうにうなだれていた。




「そうね!そうしましょ!

さあさ、今日のことは忘れましょ。お互いの傷口に塩を塗ったって悲しいだけだもの。

おしまい。これ以上この話は御法度ね。今日は楽しいお茶会よ」


雅子らしく、すぱっと歯切れよくその場をまとめた。

まるで何事もなかったように。




(え・・・・!今のなかったことに出来るの~??????)

民子は、ようやくノロノロと沢庵を切り終え、カウンター超しに、リビングを覗くチャンスを得ることができた。



「ねえみんな、あの・・・

沢庵・・・・おかわり切ったから、たくさん食べてかえってね」


無意味なほど、てんこ盛りに盛りつた沢庵の皿を持って、民子は精一杯の笑顔で彼女達に声をかけた。





「・・・・・ごめんなさい多田野さん、折角今日お招きしてもらって悪いんだけど・・・

実は急用があるの。

これから、父の代理で「いつもニコニコ党」の後援会の方たちとの会合に出席しなければならないのよ」


申し訳なさそうに雅子は席を立った。


「多田野さん、実は私も・・・主人が急にベルリンで開催される医療シンポジウム「膨満感と腸内ガス」に招かれて、これから出張準備を頼まれているの」


続けて美貴も立ち上がった。



「あの、私も・・・・

アンソニーの姉家族が、豪華客船「パイレーツ・オブ・アメリカン」で日本に奇襲・・・・あ、じゃなくて寄港するらしくて・・・お出迎えの準備しなくちゃいけないの。

ごめんね」

樹里亜もそういって立ち上がった。


「そ、そうなのね。

みんな忙しかったのね。忙しい時にお招きしちゃって・・・こちらこそ申し訳なかったわ。

何のおもてなしも出来なくてごめんなさいね。また今度ゆっくり遊びに来てね」


民子はどこまでも控えめで、下手で・・・・・

他のママ友からすれば、攻撃対象にすら成り得なかったようだ。


保守的で中ぶらりんな立ち位置は八方美人でもあり、少々鼻につくが平凡すぎてゴシップも浮上しなかったわけだ。


「そういうわけで・・・・ごめんね多田野さん」


皆は素直に頭を下げてくれた。


玄関まで彼女達をお見送りにでたとき・・・・・

何かを思い出したかのように雅子が呟いた。




「そういえば・・・・多田野さん」


「はい?」


「今日出してくれたあのティーセット・・・ロイヤル・ドン・コルレオーニの”グリーントマト”シリーズよね?

ものすごく定番で有名だけど、平凡すぎて気がつかなかったわ。ごめんなさいね、折角の逸品だったのに」


「あら、そうだったの。あのシリーズ今も流行っているの?よく知らないけど、かつて・・・バブルのころ猫も杓子も買い漁っていたっていう噂のシリーズよね。

うちは、エルザちゃんのご飯用食器にしてたかしらね。食器棚に眠っていたから」


さらりと美貴は言ってのけた。


「エルザちゃんて、あのコーギー犬の?

ふうん・・・ティーセットに興味無いからよくわかんないけど、多田野さんいつも、あればっかりでお茶出してくれるよね。

前のハイツにお邪魔したときも。ね?」


悪意があるのかないのか、樹里亜もつい先ほどの調子でズバズバ言ってくれた。



「ええ・・・・そ、そうなの~アレお気に入りだから、いつも使ってるのよ~・・・

古くさいデザインがかえって今の時代新鮮でね♪」


どのように返答すればよいのか民子には、もうわけがわからなかった。

自分は試されているのか?

からかわれているのか?

彼女達の一員として認められ、同じように槍玉にあげられ洗礼を受けているのか?ならば喜ぶべきなのか?




「じゃ、今日はご馳走さまでした。ありがとうお邪魔しました」

「またね多田野さん!」

「今度の参観日でお会いしましょう」


そう口々にお礼を言って彼女達は、樹里亜の運転する痛車いたしゃじゃなかった・・伊太車いたしゃである呂目男リョメオに乗り込み、艶やかに華やかに去っていった。


ブロロㇿㇿㇿ・・・・・・オゥ・・・・・

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