第6話 暴露大会

「あ・・・何でもないの、気にしないで。

ほら、あたし夫の郷帰りで日本にいなかったから、ほんと詳しく知らないのよ・・・・」


やぶ蛇を踏んだと樹里亜は肝を冷やした。


「気になるじゃないの。言ってよ!この際、もうなんだって驚かないわ!ねえ樹里亜ちゃん!」


「やだ・・・あたしが言うの・・・?みんなだって知ってるんでしょ?」


樹里亜に助けを求められ、雅子はしぶしぶ教えてくれた。




「ええと・・・・これはあくまで噂よ。あたし達が聞いたことはね。


その・・・・・不倫よ。


美貴ちゃんが今回の事件の真実をうやむやにするために、仲裁者である、担任の五十嵐いがらし先生に関係を迫って、示談成立させたって・・・・

万引き云々より、PTAでは不倫ネタのほうが問題みたい。


でも、噂よ噂。

美貴ちゃん自身が、全て潔白だって言ってやりゃいいのよ。ね?」


尼将軍雅子は、お奉行様のように、歯に衣着せぬ言い方で、ズバズバと噂話を素っ破抜いてくれた。





「・・・・・・・・・・ううぅっ・・・・・・・だって~仕方なかったんだもの~・・・・・わ~っ!!!」


美貴は嗚咽おえつを洩らした。



「え!?美貴ちゃん?????」



「ああするしかなかったわ・・・・ううっ・・・・ルナを守るため・・・

全てはあの子の未来のためよ~

月は・・・・・桐嶋医院にとってはたった一人の跡取り娘なんだもの・・・・・


でも月は実行犯じゃないわ~

冗談で言ったのに、幸ちゃんが真に受けたって、泣いてたわあの子だって・・・・・




わ~・・・・・」



三人は顔を見あわせた。


「どうやら、ドンピシャだったようね」


民子は、この時点で度肝を抜かれていた。

母達の情報網のすごさと、その内容に慄いた。



まるで、陳腐な昼ドラを観ている気分に陥っていた。




「まあまあ、美貴ちゃん、誰もあなたが悪いなんて言ってないわ。

あたし達、美貴ちゃんの味方よ。ね?」


雅子は、美貴の背を優しくさすりながら優越感に浸っていた。






「・・・・・・・・・・何よ何よ・・・・・・いい人ぶらないでよ!

雅子さんだってPTAのみんなと一緒に噂していたんでしょう?

あなただって色々あるくせに!」


美貴は、雅子の手を振り払うと、いきり立って反撃を開始した。



「あたしだって知ってるんですからね!

雅子さんが、変な女性占い氏に洗脳されていて、壷やら、水晶やら、

フクロウの置物やらに相当な財産を注ぎ込んで首が回らなくなってるってこと!

結婚指輪のダイヤを質屋に流して、それでも足りなくて、北条家の山を売ろうとして、親族会議にかけられたって、うちの病院のナースから聞いたんだから!」



「なっ・・・・・!」


「それだけじゃないわ!

お受験するあなたの千香ちゃんを、金閣寺女学院付属中学に合格させるために、今から色々と根回しして画策してるようね。

まあ~金遣いが荒いこと!それじゃ山をいくつ売っても追いつかないわね。

それでも・・・最近じゃ、役員さんたち相手に、詐欺まがいの霊感商法に手を染めたっていうじゃない」



「ぬわんですって~!!」

雅子は般若の形相ですごんだ。


「本当のことなら何言っても許されるんでしょ!PTA役員さんの間ではね!

副会長に推薦されたからって、いい気にならないでよ!

あなたの親が地元の名士だから、みんなおべっか使ってるだけよ」


普段の美貴らしからぬ形相が民子には信じられなかった。


「変な占い師って、もしかして、ロマノフ・卑弥呼先生のことじゃないでしょうね?!撤回してちょうだい!

先生を侮辱するなんて天罰が降るわよ!」


「ふんっ!

ますます妖しいわね。ロマノフ・卑弥呼だなんて。

自分のこと、樺太に亡命した義経と、ロシア貴族との末裔だなんて妄想しているんでしょ?そんな人に心酔してるなんて失笑ものね。

多田野さんも黙ってないでずばっと言ってやりなさいよ。

・・・あの新築祝い!あんなフクロウの置きもの気持ち悪いって!」


美貴にそう詰め寄られても、おどおどするだけの民子であった。



「え、ええ・・・・でも、まあそうね、可愛いわよね。あのフクロウ、どことなく」

などと、無意味な御託を並べ立て、中立を保とうとする民子に、美貴は不満げな視線を投げてきた。


そこへ樹里亜が仲裁に入ってくれたので、民子は高みの見物ならぬ、下から見物することに甘んじることができた。


「まあまあお二人さん、ここは穏便に。

誰だって、隠し事や後ろめたいことの一つや二つはあるわよ。ね、もうやめようよお互いを攻撃するのは」


樹里亜は、ムードメーカー的な役割りから、年上の二人を月並みな言葉で諭した。



「そういうあなたこそ、一番謎が多いじゃない」


雅子は、今度は樹里亜に牙を向けてきた。


とばっちりを喰うんじゃないかと、民子は尚もびくついて事を見上げていた。


「は・・・?今度はこのあたしが標的?あたしの何を知ってるのよ、雅子さん」

樹里亜は、声を裏返して身構えていた。


「じゃ、教えてあげるわ。

あなたが整形してるってこと、皆知ってるわよ。

なんでも、ご主人とアメリカに里帰りするたびに、二重になっていたり、バストが盛り上がっていたり・・・・

ついこの前の里帰りでは夫婦揃って、皺のばしリフトアップ手術をしたそうね。

ハリウッドスターきどりね、フ・・・」


彼女達の豹変ぶりに恐れをなした民子なぞは、無意識に立ち上がり、そっと流しに向って逃げ出した。

そして、ことが収まるまで、キッチンカウンターの影に身を隠し沢庵のおかわりを刻み始める始末。

トントン・・・・トントン

リズミカルな包丁さばきの音は、リビングの喧騒にかき消された。



「そうよ!いけない?

整形の何が悪いのよ?整形なんてたしなみよ!エグゼクティブクラスに属する者の、常識よ!マナーよ!

誰にも迷惑をかけてないつもりだけど?

インチキ占い師の言うがままに、宣教師きどりで十万円もするフクロウを売り歩くよりましよ!」


・・・・・(あのフクロウ、十万円も皆で出し合ってくれたんだ~)民子は沢庵を刻みながら冷や汗を垂らして会話を聞いていた。




「開き直らないでよ!淫乱夫婦のくせに!

夫婦そろって夜毎、会員制の乱痴気パーテイーに参加してるっていうじゃない!

それも眞里亜ちゃんと琉衣君をわざわざシッターに預けてまで!」


雅子は言ってやったり!とほくそ笑んだ。


「うそ・・・・不潔だわ。樹里亜ちゃん・・・」

思わず美貴も雅子に賛同してしまった。


「な、なによ!美貴さんだってたった今、五十嵐先生と不倫してるって認めたじゃない!そっちこそ不潔よ」


「ちょっと一緒にしないでよ。

あたしは・・・あたしの場合は、月(ルナ)のためでしょ!たった一回こっきりよ!

変態趣味はないわよ!ノーマルよあたし!」


「ふん!どうだか。美貴さん欲求不満だったんじゃないの。帰ってないんでしょご主人。

桐嶋医院に勤める看護師のマンションに入り浸ってて。

そうよね~あんなロココ趣味の家じゃ寛げないわよね~ピンクと薔薇ですものね」



「言ってくれるわね。アバズレのくせに、自分だって似たようなものでしょ。

留学して帰国子女きどりだけど、海外で何を留学していたんだか?

外国人のダンナ様っていたって、どうせ日本の繁華街でナンパされてあげく出来婚でしょ?

高層マンションだかなんだか知らないけど、生活感が全くなくて陳腐な空間ね。、本当にあそこに住んでるの?

どうせ、毎日レンジでチンの食事でしょ?だから琉衣君あんなにぷくぷく丸いのよ!」


「子供に攻撃するなんてルール違反よ!うちの琉衣はちょっとふくよかなだけです!

だいたい出来婚じゃないわよ!授かり婚です!

そうそう、眞里亜に聞いたけど、月ちゃん、クラスでは裏の女番長だって言うじゃない。

幸ちゃんのこと顎でこき使って、ずっといじめてたんでしょ!」


「あ~そういえば、うちの千尋も怯えていたわ。

幸ちゃんの次は・・・・

そのうちあたしが月ちゃんにヤラレルってね」


雅子は僅かな隙間も逃さず、再び美貴を攻撃してきた。



「うちのルナばっかり悪者みたいだけど?千尋ちゃんと眞里亜ちゃんも相当陰険よね~

幸ちゃんのこと影ではバイキン呼ばわりしてるって言うじゃない」


「あからさまにイジメルよりは遥かにましだわ。

だって幸ちゃんいつも同じ服着てるから匂うって言ってたわよ。

給食費も滞納してるって噂だし。

林間学校だって行けないみたいよ。


ね、雅子さん」

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