第4話 沢庵の古漬け

「おいしい~ん!!」



三人揃ってそう連呼してくれた。


が・・・・先手必勝。

民子は墓穴を掘る覚悟で”お口直し”を皆に勧めた。


「あの~よければ、これも食べみて。

甘いものを食べた後は、やっぱり塩味がいいわよね」


刹那・・・・・一同の視線が釘付けになったそれは・・


沢庵の古漬けであった。


「これ、主人のお義母さんが漬けたんだけど、本当においしいのよ。まずは一切れどうぞ♪」


民子は爪楊枝を差し出しながら、必死で沢庵を勧めた。

なにゆえ民子がこのような暴挙に出たかといえば・・・・

それはひとえに、冷蔵庫を開け放つたび、リビング中にに漂う沢庵臭を、食べてもらうことで中和させたかったからに他ならない。



彼女たちに一口でも食べさせておけば、香と同化してしまい、さほど気にならなくなるだろう。と算段をふんだ。

ニンニク臭がいい例だ。匂いと一体化してしまえ!。

自分と同じ境地に立てば、充満する匂いを緩和できる!。と思い切って賭けに出たのだ。


いつになく民子が強気で勧めるものだから、ママ友たちは言われるがまま手を伸ばしてみた。


「そおね・・・じゃあ、お言葉に甘えて、一切れいただくわ・・・」

皆、ゆっくりと手を伸ばし、一口かじってみた。




ポリポリッ♪



「あらやだ。ほんとおいしい~」

「ほんと、いけるわね!」

「丁度いい塩加減ね!」

3人は素直に感想を言ってくれた。


民子は内心、してやったり~とガッツポーズであった。


「美貴さんの持ってきた”マリーアントワーヌ”の紅茶にも合うわね~オリエンタルフレーバーだからかしらね。

うちの庭にある蔵を漬物小屋にして、私も手づくりしてみようかな~母が怒るかしら?」

雅子は三枚目に手を伸ばしていた。

ポリポッリ♪


「とまらないわねこの古漬け。冷蔵庫が臭くなるから、普段は滅多に買わないんだけど、たまにはいいわね」

美貴の口にも合ったらしい。

ポッリポリ♪


「ほんとうだ~漬物っておいしいのね。うちの実家は洋食派だったから、漬物はピクルスばっかりだったから、すごく新鮮~

今度アンソニーにも買ってみよ」

樹里亜も絶賛!


結局。きどっていても、彼女達も日本人。

漬物民族なのだ。

姑の沢庵が案外好評だったことに、内心複雑な気持ちの民子だったが、ひとまず胸を撫で下ろした。




沢庵のおかげで、お茶会は和やかムードでスタートした。


んが・・・・お茶会の本番はこれからなのだ。

女という生き物は、庶民からセレブまで、噂話が大好きなのだから。

澄ましかえった淑女であっても、他人の不幸は蜜の味。


大奥でも、ベルサイユ宮殿であっても、ゴシップは女にとって最高の”おつみまみ”であった。


噂話なんて下劣だわ~などとカマトトを装っている人間が本当にいるとしたら・・・

仙人か、または不感症か・・・いずれにせよ、それこそが噂のネタになるから注意が必要だ。





ポリポリ。ポリポリ・・・・・





沢庵を噛み砕く小気味よい音を合図に、火蓋は落とされた。

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