トイレの花子さん。

@yuzu_dora

トイレの花子さん。

花子の部屋

花子、スッキリした表情でトイレから出て来る。 

スーツに着替えて外に出る。


気持ちの良い朝

スーツ姿の花子、モジモジしながら歩いている。

公園のトイレへ駆け込む。

出てきた花子はスッキリしていない様子。


苦悶の表情の花子。

トイレへ駆け込む。

溜め息を吐きながら出て来る。


電車内

顔が青くなっていく花子。

冷や汗。

途中下車してトイレへ向かう。

悲しそうに出て来る。


着いて早々、オフィスの中でもトイレに行く。



どっと疲れて帰って来る花子。

そのままベットに倒れ込む。



真っ白な空間

花子、目が覚める。

辺りを見回すと、白い服を着た可愛らしい男の子と女の子が花子を見ている。

近付く二人。

花子、お辞儀をする。


女の子

「私、ユマリ。」

男の子

「僕はベン。」

花子 

「私は花子です。」

二人 「

知ってる!」

花子 

「……ここはどこですか?」

ユマリ

「ユマリ達のお部屋。」

花子 

「……。」

ベン 

「花子さん。僕たち困ってます。」

花子 

「どうしたの?」

ユマリ

「トイレに行き過ぎです。」

ベン 

「僕達、もう絞れません。」

花子 

「……。」

ユマリ

「どうしてそんなに行くんですか?」

ベン 

「トイレが好きなんですか?」

花子 

「……私が聞きたい。」

ユマリ

「我慢すれば良いじゃないですか。」

花子 

「……簡単に言わないで欲しいな。」

ベン 

「僕たちだって我慢しなさいって教わるよ。」

花子 

「ある程度は我慢して来たよ。お医者さんにも汗で流れるって言われたし……。」

ユマリ

「そうだよね。」

花子 

「……でも、歳には勝てない。」

ベン 

「まだまだじゃん。」

花子 

「年々、我慢の時間が短くなってるの。当たりとハズレがあるって言うか……。」

ユマリ

「出る時は出るけど、出ない時は出ないってヤツでしょ。」

花子 

「うん。」

ベン 

「僕は大丈夫じゃん。」

花子 

「……あの。」

二人 

「なあに?」

花子 

「二人は何者?」

二人 

「だから!」

ユマリ

「貴女のユマリ!」

ベン 

「貴女のベン!」

花子 

「……。」


二人、花子をじっと見つめる。

花子、二人があまりに可愛らしいので顔が緩む。 

二人、怒って花子の頭を叩く。

花子、笑って頭をさする。


花子 

「……もしかしてなんだけど、二人は私の便意と尿意?」

ユマリ

「尿意って言わないで!」

ベン 

「僕も嫌だ。」

花子 

「……だとしたら、困ってるのはこっちだよ。」

ユマリ

「何で?」

花子 

「だって、貴方達が私をトイレへ誘ってるって事でしょ?」

二人 

「……。」

花子 

「特にユマリちゃん。」


ユマリ、俯く。


ユマリ

「ユマリだって、好きでそうしてるんじゃないもん。めーれーだもん。」

ベン 

「僕だってそうだよ。まだ何も出来てないのにさ、呼ばれるんだよ。」

花子 

「私にはどうする事も出来ないよ。」

二人 

「出来るっ!」


花子、二人の圧に押される。


花子 

「……どうしろと?」

ユマリ

「私達があんまり出ない日を思い出して欲しいの。」

花子 

「……そんなのあったかな。」

ベン 

「あるよ!今日だって、帰りは買い食いしてお茶も飲んだけどトイレ行って無いじゃん。」

花子 

「……確かに。」

ユマリ

「私達、花子さんが会社に行く時だけ呼ばれてる。」

花子 

「……。」

ベン 

「ストレス、ってやつじゃない?」

花子 

「そりゃあ、お医者さんにも言われたよ。でも、どうしようもないじゃん。」

二人

「……。」

ベン 

「何がそんなに嫌なの?」

花子 

「うーん……。」

ユマリ

「嫌な人が居るとか?」

花子 

「そりゃあ、それなりに居るでしょ。」

ユマリ

「それなりにだったら、私達、苦労してない。」

花子 

「……。」

ベン 

「この際、僕達に全部話してみたら?」

花子 

「……。」

ユマリ

「ここは貴女の空間なんだよ。花子さん。」


二人、涙目で花子に迫る。

花子、困る。

ユマリ、泣き出してしまう。


ユマリ

「私っ、花子さんに嫌われてる事、知ってる。でもぉ、本当は仲良くしたい。」

ベン 

「僕だってぇ!」


ベン、つられて泣き出してしまう。

二人、ギャン泣き。

花子、途方に暮れる。

やがて、泣き疲れたのか、二人は寝てしまう。

どこまでも白い空間。

花子、無防備で可愛らしい寝顔を見ながら呟き出す。


花子 

「……昔、人をいじめてた事、人生談として語るなよな。……とは思う。」

ユマリ

「……ん?何?」

花子 

「何でもない。」

ユマリ

「それが、ストレスの原因じゃないの?」

花子 

「……そうかもね。」


暫くの沈黙。

ベンのいびきだけが響く。


花子 

「受けた相手はきっと暗い感情持ってる。

だけど、踏ん切り付けようとして接してたかもしれない。」

ユマリ

「……。」

花子 

「ちっぽけな成長の糧に人の人生使うなって思う。加害者は加害者だよ。」

ユマリ

「その人は会社の人なの?」

花子 

「うん。上司。」

ユマリ

「したり顔でそんな話されたら嫌だなぁ。」

花子 

「そうなんだよね。私は関わってないけど良い話ではないよ。

勝手に良い話にするなよって思う。」

ユマリ

「……。」

花子 

「しかも、まだ引き摺ってる人が居たら馬鹿にするんだよ、そいつ。

心の傷はその人にしか分かんないのに。」

ユマリ

「……だから、私を呼んじゃうの?」

花子 

「……違う。」

ユマリ

「?」

花子 

「毎回、そんな話をただ聞いてるしか出来ない自分が一番気持ち悪いの。」

ユマリ

「……。」

花子 

「私は経験者なのに。」

ユマリ

「あの時はびっくりして、いつもより多く絞っちゃった。」

花子 

「……。」

ユマリ

「焦れば焦る程、止まらなくて、どんどん、止められなくて……。」


ユマリ、涙目。


ユマリ

「ごめんなさい。」

花子

「大丈夫だよ。もう気にしてない。」

ユマリ

「だけど、あの時の感覚が消えないから……」

ベン 

「そんなやつが居る所なんて辞めちゃえば良いじゃん!」

花子 

「でも、仕事はやりがいがあるのよ。辞めたくない!」

ベン 

「一日中、苦しめられてるのに?」

花子 

「その人だけが原因じゃないよ。」

ユマリ

「他にもあるの?」

花子 

「……。」

ベン 

「花子さん。」

花子 

「自分の実力がどの位なんだかイマイチ分かんない事、かな。」

ベン 

「花子さんは頑張ってると思うよ。」

ユマリ

「色んな仕事、こなしてる。」

ベン 

「変な先輩にも対応してるし」

ユマリ

「出来ない社員のフォローもしてる。」

花子 

「……ありがとう。」

ユマリ

「やりがいがあって辞めたくないのに、どうしてこんなに苦しんでるの?」

花子 

「……私は苦しんでると思ってないよ。大丈夫。」

ベン 

「嘘だね。僕達、かなり呼ばれてるもん。」

花子 

「子供には分かんないよ。」


二人、悲しそうに消える。

自分のベッドで目覚める花子。

トイレに行く。

花子、うずくまりながら用を足す。


花子 

「……反乱か。」


動けなくなる。



昼の路地

お腹を抑えながら歩いている花子。

何処かに電話している。


「……もしもし。……実は軽い胃潰瘍になってしまいまして

……はい、はい、すみません。宜しくお願い致します。……失礼します。」


辛そうに歩いているがトイレには行かない。



花子の部屋

ベッドで寝ている花子。

じっと天井を見つめている。

やがて、眠りに落ちる。



スッキリした様子の花子。

花子の後ろ姿。

一呼吸を置き、何かを書き始める。

伸びをして封筒にしまう。

立ち上がり、支度をする。


(終わり)

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