尋問
デュースター村に小夜を引き連れて帰還したは良いが、村人たちは明らかに小夜を持て余している様子だ。
小夜を取り囲むように形成された
そんな攻防が
「ちょっと! アンタたち一体何なのよッ!?」
小夜は一番近くにいた男に声を掛ける。もとい、胸倉を引っ掴み強引に引き寄せた。
「ひっ、ヒィィ⋯⋯!?」
小夜の額には青筋が浮かび、怒りから口角がヒクヒクと
それだけ小夜が未知の存在であり恐ろしいという事なのだろう。
「アンタ! そんなに逞しい身体付きをしてるってンのに、こ~んなにか弱い女の子の何処が怖いっていうの!? 見なさい、この細腕を、華奢な体躯をッ!!」
「た、確かに⋯⋯?」
鬼も裸足で逃げ出す程の険しい形相で迫られた大男は、相変わらずビクビクと怯えながらもまじまじと小夜の頭の天辺から足の爪先までを見比べる。
「全く、この世界の男は揃いも揃って情けないわ! 兎に角、先ずは私の話を聴きなさい!」
✳︎✳︎✳︎
「——話を纏めると、貴女は本当に俺達が書いた召喚陣を通して此処とは全く異なる世界からやって来た、と⋯⋯?」
小夜が胸倉を掴んだ村人B改め、ルッツは信じられないという顔で言った。
「ええ、そうよ」
「ということは貴女様が伝説の聖女様なのですね!?」
別の男が言った。キラキラと瞳を輝かせ、期待に満ちた眼差しを向けてくる。
「ちょ、ちょっと待って! それについてはまだ分からないわ⋯⋯。だって、全くといって良いほど自覚が無いんだもの」
無闇矢鱈と期待させる訳にはいくまいと、小夜は直ぐさま否定した。元の世界から此の世界へとやって来たは良いが、小夜の身体に特段の変化は見られなかった為だ。
小夜の知る異世界に召喚された主人公は、転移後間もなく特別な力を発現していたが、小夜にはそのような
やはり物語の主人公のように転移したからといって都合の良い事はそうそう起きることは無く、フィクションはフィクションでしか無いのだと改めて思い知らされる。
しかしまあ、今の小夜が置かれている状況はまさにファンタジーと呼べるのだが。弟が今の自分が置かれている状況を知れば、今直ぐにそこを変わって欲しいなどと言ってきそうだと小夜は思った。
「そ、そうでしたか⋯⋯」
間髪入れない小夜の返答に、小柄で気弱そうな男はあからさまに肩を落として項垂れた。そんな彼を見て小夜は被害者であるのになんだか申し訳ない気持ちで一杯になる。
「私が聖女なのかどうかは追い追い考えるとして⋯⋯取り敢えず、何故聖女を召喚しようとしたのか教えて貰えるかしら? まさか、理由も無く呼び出した訳じゃないわよね?」
「ええっと⋯⋯」
ルッツは口籠る。
「何よ、言えないっていうの? 当事者かつ被害者である私には聴く権利があると思うのだけど」
小夜がジロリと睨みを利かせると、ルッツはビクッと肩を跳ねさせた。そして、少し
「じ、実はこの村⋯⋯いや、この国では呪いによって大勢の人が死んでいるんだ。この村でも既に半数以上が呪いにやられている。そんでもって、その呪いってのを運んで来たのが第二王子ってもっぱらの噂なンだ」
「なっ、何で王子が!?」
「⋯⋯詳しいことは知らない。だが、その王子ってのが自分自身も呪いの影響を受けていて、その所為か如何にもけったいな見た目をしているそうなんだ。しかも、王家の正統な血筋じゃなくご落胤なンだと。それで、自身の出自とそれを疎んだ王家を憎んでいる王子が災いを運んで来たんだって騒いでるのを聴いたことがある」
「ふうん。この世界も色々と複雑な事情があるのね。⋯⋯ッて、ちょっと待って! 村人Aから聴いたのだけど、聖女って外傷を治癒するだけじゃないの? 呪いも祓えるなんて聖女の
「む、村人A ⋯⋯? 誰だそりゃ。⋯⋯伝説の聖女様なら不思議な力で何とか出来るんじゃないかと思って喚ぼうとしたンだよ。出来るだろ? 聖女様ならきっと⋯⋯」
ルッツはバツが悪そうに小夜から目を逸らし、ポリポリと頬を掻きながら言った。
「はあァ⋯⋯!? そんな希望的観測で召喚しようとしたの? そんなんで喚び出されたら聖女もたまったもんじゃないわよッ!!」
小夜は声を張り上げる。
「聖女は何でも屋じゃないのよ? アンタ⋯⋯聖女の気持ち考えたことあるの?」
「おっ、俺にそんな事言われても⋯⋯! そもそもこの話を持ってきたのは魔女の婆さんなンだよ! 後の詳しい事は婆さんに聴いてくれッ!!」
追い詰められ、困り果てた末にルッツは老婆へと罪を
「そうだ、お婆さん! さっきから姿が見えないけど一体何処に居るのよ?」
「疲れたから休むとか言ってそこの小屋に居る筈だ」
標的が自分から魔女である老婆に切り替わった事にホッとした様子を見せるルッツは、すぐ近くにあるボロボロの
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