もっと私を好きになる
なまけもの
第1話 「雨の日には、あなたを思い出す」
はじめに
山本 玲香 20歳。
自分の居場所はどこにあるのか探し続けてきた。
嬉しいことがあったとき、辛いことがあったとき、
誰に連絡していいのかわからなくて、転々としていた。
今思えば、居場所なんてものは最初からなかったのかもしれない。
そもそも〈居場所とは〉どんなことを指しているのか、
そんなことを考え始めた中学三年生の頃、まだ15歳だった。
居場所の意味を調べると、自分が存在する場所のことを指していたけれど、
まだ15歳の私には、理解ができなかったんじゃないかな。
そんな居場所を探し続けた、私の五年間の物語。
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「雨の日には、あなたを思い出す」
目が覚めてからよく耳を澄ますと、水たまりを車がはねている音がした。
「ザー。」
ベランダから外を眺めると、雨が降っていた。
玲香は、雨とは仲がいいのだ。
そう、雨女。
雨だけではないけれど、何か起こると普通の人とは違う思考になってしまう。
「雨か、好きな人と相合傘できる日か。」
なんでもかんでも、恋愛に例えて考えてしまうのが玲香の変な癖だった。
そんなことを考えているけれど、ちょうど一か月前に初めてできた彼氏に浮気をされたばかり。中高一貫に通っていた私は、三つ上の高校三年生の先輩と付き合っていた。
先輩とは、部活が一緒だったことから出会った。
いつも学校から駅までの20分間、一緒に帰り、甘えられるお兄ちゃんのような存在で、同期の自転車をパクッて二人乗りをして帰ることも多かった。
歩いて帰るときは、先輩は身長が高いから肩を組んで先輩の同じクラスの女子に見られて目立っていたこともあった。
いつの間にか、お兄ちゃん的存在の先輩から好きな人に変わっていった。
先輩が、部活を引退した日だった。
「付き合うかー。」
「わたし!?」
「他にいるかよ。」
先輩は笑いながらそういった、気持ちを伝えてくれた。
それだけで幸せな気持ちだった。
先輩が引退してから、寂しい気持ちもあったけれど、よく部活終わりまで待ってくれて、一度家に帰ってから学校に迎えに来てくれることもあった。
「今日、試験勉強あるわ。」
少しずつ、会う頻度は少なくなるし、学校であってもそっけない態度をとられていた。
そんなある日だった。
「これ、玲香の付き合っている先輩だよね?」
部活が終わった後に、友達から写真が送られていたのでそのまま通知を開いた、私が見た写真にはタワレコでヘットフォンをつけて音楽を聴いている、付き合っているはずの好きな先輩とポニーテールの女の子の写真だった。
「頭が真っ白になった。」
大人がよくいう言葉、中学生の私にはよく意味はわからなかったけれど、
初めてこの言葉の意味を理解した気持ちだった。
「これ先輩だよね。付き合っているの?」
「ごめん、別れよう。」
「私、何かした?」
「そういうことじゃない何もしてない、けどごめん。」
何が原因なのかわからないまま、終わってしまった。
振られてしまった、捨てられてしまった。
私が子供過ぎたのだろうか。
甘えすぎてしまったのだろうか。
女の子らしさが足りなかったのだろうか。
あんなに抱きしめてくれたのに、手を繋いでくれたのに、好きって言ってくれたのに。
これまでの思い出は、すべて過去の思い出になった。
付き合う前は、知りたいという思いから好きが強くなり、距離が縮まり楽しいけれど、別れるときは苦しくて、寂しくて、心に穴が開いたような気持ち。
この気持ちは、一生忘れられないのだろうと思った。
この日から、雨になると一緒に相合傘をして裏道を使って下校をしたこと、
晴れてるのに雨が降っていた日も、おんぶをしてくれて笑いながら駅まで帰ったこと。
夜の公園で待ち合わせをして、傘の下で唇を合わせたこと。
雨の日に電車に乗り、イヤホンを片方ずつ分けて音楽を聴いたこと。
雨になるたびに、思い出はよみがえっていた。
好きだった。
いつも辛いときは、そばにいてくれて「大丈夫だよ。」と耳元でささやいてくれるあなたの声。
あなたの腕の中に居られることが、私の居場所だった。
いまだに、雨が降ると私はベランダから雨を眺めてあなたとの思い出を思い出す。
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