第3話 生誕輪廻
ツァラはゆっくりと立ち上がる。
「あとはアイツらか」
そう呟いたツァラはフェンリルを鞘に納める。
―――オギャァアアアアアアアアア!!!!
産声が木霊する。
何が起きたのかとツァラは辺りを見渡す。
そして、ツァラはソレを見つけた。
「なんだよ、これ……」
砕けた痩身の髑髏の中から生まれたソレは、のっぺらぼうの様な顔をした老人のような見た目の赤子だった。
膝を抱えるようにして丸まるそれは、産声を上げながら空中へと浮かび上がっていく。玉座から新たに延びるチューブが、その体へと突き刺さっていく。
生まれながらにして死にゆく赤ん坊はチューブを掴むとそれを振り回す。
赤ん坊の振り回したチューブに繋がった玉座がガラス張りの部屋を抉り抜く。
光の体を持つ軟性の生物が床に落ちてくる。クラゲの様な体を持つその生物は痙攣しながら体の光を失っていく。
のっぺらぼうな赤子は口を大きく開き産声を上げる。
ツァラは再びフェンリルを抜き構える。
しかし、魔素の備蓄もない。先ほどのカートリッジで文字通り、すっからかんの状態だ。ブースターによる高速移動すらままならない現状では、宙に浮く赤子に対して取れる手段などない。
そんな現状に赤子が配慮などするはずもない。玉座を持ち上げると容赦なくこちらに投げつけてくる。
転がるように飛び込み回避するツァラ。運動制御の補助もなくなったせいか、呼吸も切れ切れになっていた。
赤子は泣き声を上げると周囲の魔素が集まり、それが鉱石塊へと転じる。
赤子の猛攻が続く。動き続けるツァラだが、高速で飛び続ける鉱石塊を避け切ることはできない。
装甲が破損し、魔素浄化装置にも亀裂が入る。盾代わりにしたフェンリルも銃身が折れた。バイザーの映像にも乱れが見られる。
ようやく終わった岩の雨。巻き上がった土煙の中から現れたツァラは、フェンリルを杖のように立て、それに凭れている。既に満身創痍だった。
最早、打つ手はないようにも思えたツァラだが、その目にはまだ希望の光が宿っている。
「……汚い空気を吸うのは嫌なんだがな、死ぬよりはマシか」
フェンリルの柄を握り直し、赤子へと向ける。
「―――リア・ファル、浄血。装甲キャストオフ、フェンリル、ブレイクアウト!!」
ツァラの言葉に呼応するように装甲が蒸気を輩出して剥がれ落ちる。マスクはヘッドセットへと格納され、彼の顔が露わとなった。
『リア・ファル』は魔素の濃い中でも活動できるように使用される浄薬。これを使えばマスクがなくとも動くことができる。しかし、その効能は十分と持たない。
フェンリルの纏っている装甲も、彼のそれと同じように展開され剥がれ落ちる。
その中から出てきたのは青白い光を放つ円柱状に加工された魔石だった。これが魔素をコントロールし、様々な技巧を使えるようにしているのだ。
ツァラは浄化装置に搭載されている、魔素を送り込むケーブルを掴むと、それをフェンリルの柄頭に差し込む。
普段、
それに吸収した魔素を直接流せばどうなるか?
制御装置を失った魔素はオーバーロードし、触れるもの全てを破壊するエネルギーの塊となる。
更に行き場を失った他の魔素は全身の排出口から排出され、疑似的にブースターの役割を担っていた。
「……行くぞ、輪廻の体現者!」
ツァラは床を蹴ると赤子に向かって飛び掛かる。
赤子は再び魔素を集め、鉱石の塊を作り出し、それをツァラに向かって投げつける。
しかし、ツァラはそれを難なく切り捨て、勢いを殺すことなく突進する。
ならばと赤子は鉱石を細かく分散し飛ばしてくる。
ツァラは腕と足を動かし、右に、左にと回避する。
止まらない猛攻。しかし、その攻撃がツァラを捉えることはない。
「いい加減、死を受け入れろ!!」
剣を掲げるツァラは赤子の上空からブースターで加速しながら落下する。
すれ違いざま、赤子を一閃する。
地面を滑走し着地するツァラは赤子の方を見る。
悲鳴を上げて光となって消えていく赤子。それに合わせて肉の世界も剥がれ落ちるように消えていく。
世界はまるで核を失ったかのように元の廃墟へと戻っていく中、収束する光を見てツァラは安堵していた。
が、光は消えることはなく。人の形になっていく。
そして……。
「な……」
光は裸の少女となって、ツァラの上に落ちてきた。
四肢の無い少女。いや、正確には四肢のあるべき場所は薄いピンク色の触手が生えており、ないはずの手足を補っているようにも見える。
一糸纏わぬ白い肌の少女はツァラの顔をじっと見ている。
困惑するツァラもまた、少女を見つめてしばらく固まっていた。
おもむろに少女が口を開く。
「……パパ?」
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